2012年3月29日木曜日

どろどろ アオミドロ色 どろどろ




                     俗人猶愛するは未だ詩と為さず
                  陸游




こういうのが
いい詩ですよね
さし出されたのは

《おとことおんなが
われなべにとじぶたしきにむすばれて
つぎのひからはやぬかみそくさく
なっていくのはいやなのです》

ああ
新川和江の
『ふゆのさくら』ね

《あなたがしゅろうのかねであるなら
わたくしはそのひびきでありたい
あなたがうたのひとふしであるなら
わたくしはそのついくでありたい
あなたがいっこのれもんであるなら
わたくしはかがみのなかのれもん
そのようにあなたとしずかにむかいあいたい
たましいのせかいでは
わたくしもあなたもえいえんのわらべで
そうしたおままごともゆるされてあるでしょう
しめったふとんのにおいのする
まぶたのようにおもたくひさしのたれさがる
ひとつやねのしたにすめないからといって
なにをかなしむひつようがありましょう
ごらんなさいだいりびなのように
わたくしたちがならんですわったござのうえ
そこだけあかるくくれなずんで
たえまなくさくらのはなびらがちりかかる》

最後の四行だけが
ほんのちょっと詩だね
ちょっとだけね
読み方によっては
でも
つまらないね
「しめったふとんのにおいのする」
ちっぽけな
自意識の見る夢に
おちいってしまっていて
ぶちこわし

そう言ったら
「詩が大好きで
けっこう自分でも書く」女の子は
あっけにとられ
顔をくもらせ
ブスッとし

最後の四行以外は
もう
まるでダメだよね
こういうのが
詩ですか
詩のつもりなんですか
あなたにとっても
これが詩?
こんなもんなのかい
詩って?

もっと
言い募れるけれど
言わない
言ってもしょうがない
言いたくもないし
言いたくもないことを
言うのも
言わないのも
ときには愉しいし
でも
言いたいことを
言わないでおくのも
微妙に快楽
あることを言ってしまうか
言わないでおくか
そんなにシンプルじゃないですって

おとことおんなが
われなべにとじぶたしきにむすばれて
つぎのひから
はや
ぬかみそくさく
なっていく
ことの
すばらしさ
貴重さ

しめったふとんのにおいのする
まぶたのようにおもたくひさしのたれさがる
ひとつやねのしたに
住めても
住めなくても
そこらのおじさんや
おばさん
個性も
教養のきらめきもなく
あなたとか
わたくしといわず
あんたとか
あたいとか
おれとか
おめえとか
呼びあう
気どりのなさ
そんな生きざまの
ほんとうの
よさを
しかたなさを
しかたなさの
貴重さを
わからないで読むなら
わからないで
この詩を
いいと言っているなら
この詩は
ダメ

でも
わかって言っているなら
この詩は
痛切な恋の
つらぬき

相手をれもんに喩えたり
自分をかがみのなかのれもんと言ってみたり
あるいは
しゅろうとか
そのひびきとか
うたのひとふしとか
そのついくとか
はては
しずかにむかいあいたい
とか

そういう精神ほど
詩から遠いものはないのだよ
きみ
すこしは目をあけて
見えるものをそのまま
見てごらんなさい
つきあってる人がいるのに
きみは他のおとこの
顎の輪郭や
胸板に惹かれ
それとなく腕が触れるように
からだを寄せたり
だいたい
酔いにまかせて
抱かれてしまったことも
なんどもある
そういう心魂こそ

お花見のござの上で
ふるぼけた新劇の終幕のように
あかるくくれなずんでも
きみの欲望も
切迫したもだえも
あいまいな不満も
なあんにも道を見つけられない
ちょっとは
二十一世紀の大詩人Masaki Suruga
詩集など出す暇もないほどの
疾走詩篇を読んで
学びなおしてみることだ
「で、キンタマにガッシュを塗ったこと、あるか?」
とヤツは書いた
「俺はあるぞ
そうして裸でローマをバイクで疾駆したこともある
ハドリアヌスが俺を見て世をはかなみ
急速に衰弱しておっちんだそうだ
ユルスナールは書いてないだろ、そのこと
まあいいさ
今度はストックホルムか
北京でもやるかな
今度はケツだ
今度は落ちないペンキ
塗りたくったる」
と書いた
詩とはこれだ
キンタマにガッシュ
イエローモンキーから金をせびり取ろうと
銀座や表参道にたいそうな屋台を並べた
外国のブランド野郎どもの前で
叫んでみろ
キンタマにガッシュ!
キンタマにガッシュ!
キンタマにガッシュ!
これが詩だ
有色人種をけっして受け入れない白人精神を忘れるな
マダム
マドモワゼル
などと言われて
財布と膣をすぐに開く黄色人種女は底の底から馬鹿にされておるぞ
世界は甘くない
奴隷制の時代のままだ
金と細工技術だけの黄色人種の国は軽んじられる
甘くないぞ
あかるくくれなずんでいる暇は
ない

きみの大好きな
パリ
ロンドン
ニューヨークのど真ん中で
イエローモンキーとして歴然たる差別を
いちどは受けて来たまえ
詩というべき詩は
そこから
イヤでも生れてくる
そこからしか
生れて来ないものが
詩だ

どうしようもなく
これまでにないほどちまちまと
宦官よろしく
にっぽん全国お嬢ちゃん化した時代にあっては
なおさら
なおさら

カメレオンのように
前後左右の他人のふるまいを見て
たえずあわせて色を変え
見たまえ
にっぽん全国
どろどろ
アオミドロ色

どろどろ

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