2012年3月1日木曜日

柳の毎春の若葉をともに眺めた…




「時間」という言葉の莢が破れ、…
(ヴァージニア・ウルフ
『ダロウェイ夫人』)



柳の毎春の若葉をともに眺めたあなたは消えて
そろそろ柳が芽吹きはじめる頃だとまた思う私
まだ寒いけれど木々の先には硬い芽が膨れ出し
帰って温める居間のストーブでは薬缶から湯気
曇る窓から覗く夕景のしんなり暗んでいくのを
失われてしまったものを抱えながら心は愉しむ
少し濃い目のお茶を飲みたい気分でキッチンへ
向かいかけるとふいに小さな雷に打たれたよう
寒い夕べひとりで温かい春先のこの部屋のなか
お茶を作ろうとする私のくっきりした実在感覚
あなたもいないのに私だけはここにあり続けて
また新しい春を迎える一度きりのこの時の一点
在り過ぎる、すべてが!―と言って、声高に!
誰か!出航の時!静かな存在の海に向かって…



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