2013年2月2日土曜日

笑っているTシャツのゲバラよ




心の奥底ではすべてを丸ごと拒絶しながら、
うわべは受け入れるふりをするという戦略
      (ロベール・ブリアット
        『ポール・ボウルズ伝』)





とにかく世界は忘れる
とにかく国民は忘れる
とにかくあなたは忘れる
とりわけあなたが忘れる
誰よりあなたこそ忘れる
どんどん忘れていく
ガザ爆撃も
福島原発事故も
事故の後の東電の傲岸不遜も
政府の後手後手も
何十年にわたって経済政策が
メチャメチャだったことも

財源がないのに
資金投入も何もないのだが
取らぬ狸の皮算用で
産業万端が動き出してしまえば
シメシメ
と思ってるんだろう
そうは問屋が卸さないもの
財政の崖は
今度は財政のアビスになって
回帰してくるはずだし
ヨーロッパの失業率はもう
革命直前の数字
中国もいつ崩壊かなどと
思っちゃうのは
悲観的過ぎるってもんですかね

どうして
もっと実質的な考え方をして
地道に経済や
政治をやっていけないものだろう
そんなむずかしいことではない
原理的にはね
しかし
原理の通りに
動いたことがない人間が相手だから
いつも原理は大失敗
原理主義者のルソーも
ロックも
ロベスピエールも
マルクスも
必敗組
かといってそれらを投げ出すと
やっぱりごっそり
地獄行き

このあいだ
安倍首相に声援を送る若者に
ゲバラのTシャツを着ているのがいた
おいおい
バチスタ政権に
きみは声援を送っているのかもしれないよ
と思ったが
Tシャツのゲバラはゆがんで
微笑んでいるようだったよ

ゲバラだって
たしかに
死んでもう長い今となっては
笑うしかないだろう
自分がしたことはなんだったっけかな
政治経済はどっちに
どう動かせば
ほんとうに人は幸福になるんだろうなとか
大臣としてきみが演説した政策は
理想主義たっぷりのかなりヤバいものだったが
思えばきみも
一時期波に乗ったというだけのことだった
人間学も思想も文学も足りていなかったきみに
一時期の波乗りぐらいしか
できなかったのもしょうがない
死後に商品になるぐらいが
せいぜいゲバラ的な連中の関の山
だんじて消費社会に受け入れられないような
そんな連中をこそ探せ
若者よ
老人よ
中年よ
壮年よ
いまのこの体たらくが人類だというなら
やっぱり人類の外に出よ
人類を捨てよう
人類を脱ごう
人類に混じりながら
商品主義の網の目の中を不可視の毒液となって
にじにじと
浸透したり逸れたり蒸発したりまた染み入ったり
非人類のほうへ
人類の感性や脳を汚染していこう

笑っている
Tシャツのゲバラよ
もう
きみは要らない




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