猫も犬も飼っていないのは
放浪と旅と
なによりじぶんを飼っているから
何か月もじぶんに戻らないことがあるのに
とてもペットたちの世話など
見きれない
けれども
宇宙ぜんぶが庭だと思うと
どこの犬も
野良猫たちも
うちの連中みたいなもの
とりわけ
ちゅくちゅくと
声をかけない猫はいない
こっちを振りむかせるまでは
ちゅくちゅく
ちゅくちゅく
おい、とか
ねこちゃん、とか
言ったりもして
むかし
隣のひとから譲られた
外猫のミミを飼っていた
うちで食べ
夜だけうちで眠り
日中は近所に遊びに出たり
パトロール
軒下や屋根でかならず昼寝
他にも餌をくれる
レストランや別荘を
どうやらいくつも
持ってやがって
ひと月やふた月
ミミを放って外国に出る
戻ってくると
すぐにはすがたを現わさず
しばらくしてから
与三郎みたいな顔をして
台所の窓にお出まし
トンと
うちに入ると
こんちくしょう
どこ行ってやがった
こちとら
どんなに苦労したか…と
にゃあにゃあ言って
そのうち手を舐め
毛づくろい
ちょっとおいしい猫缶をあげると
ひとしきりムシャムシャ
で
その後は
なにごともなかったように
いつものふっくら座布団に上がって
ご就寝
いま思えば
よくできた猫であった
うちにいても
いなくても
界隈にいて生きている
ミミが
あたまの中までも
うろうろしていた時代であった
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