2013年2月6日水曜日

今生もほんとに

  


冗談から前世の話など出ると
たいていの人が言うのは
じぶんが貴顕の誰それであったかも
なかったかも

その時代
その国に生れていたとしても
無名のひもじい誰それだったとは
どうして
誰も想像しないのだろうか

何十回ものじぶんの前世がわかっているが
わたしはいつも
ひもじく
時にはさもしく
もちろん無名で
悲惨な死にかたも何度もしてきた

それでも
ついひとつ前の前世は
比較的よくて
つましいものの
ほそぼそとした女の正直な人生
思い出すたび
少しうすら寒くて
こころ細くて
でも
すっと通った枯れ藁のようで
けっこう気に入っている
替えの衣類にも事欠くような
貧乏な家庭で
わたしの生は洗濯と
機転をきかせた食事つくりと
気の抜けない子育て
乾き気味で白っちゃけた肌をして
家業に打ち込んでいた夫の
痩せた背が灯に影を持つのを
よく覚えている

わたしの今は
そこからじかに来ている
なにも家のことなどせずに
安楽に生きているなどと見る人がいるが
家事のほとんどをし続けて
外に出る仕事があろうとなかろうと
毎日数度の洗濯と
大根やキャベツや油などの重い買い物も
仕事帰りにはほぼ毎日
すこし遠くへまわって魚を買い
安売りの時にはほうぼうに買い出しに出て
そうして睡眠時間を削って
本を読んでいるとは
誰も思わないものらしい
前にやっていた貧しい主婦の人生の頃
わたしのしたかったことは
少しは読みたい本を読み
少しは心情や思いを書き記したいということ
神さまのおかげで
そんなちっぽけな願いも
今生ではちょっと叶えることができ…

感謝しています、神さま
わたしは
今生もほんとに
しあわせに
素朴に
生きさせてもらいました





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