2013年12月1日日曜日

いることといないことのすべてに





     私はすでに時間でしかない。
             シャトーブリアン




この世に滞在したものたちのうち
わたしほど恵まれたものも少ないだろう
どんな時でも光景は決定的であるのを見てきたし
かたちや色の万化の妙をいっときも見逃さなかった
音もかおりも臭気さえも停滞することはなく
ひとびとの言葉はなによりも先ず音のむすびあわせ
いつもからだという物質の奇跡をまとい
外からの音のない時でさえ耳に血流は鳴った
腸も心臓もときには勝手に狂騒してうごめき
熱もつめたさもたえず変化してからだを移動する
あゝこれらすべてが無償で与えられた冒険
これらが得がたい恩寵であることをわすれず
そのいちいちに心を奪われつづけて
ひとつひとつに寄り添いながら時を流れた
人界になにごとか残そうとする哀れなひとびとは
ひかりの彩もかたちの移りゆきも見逃して
思いのうちのひとつふたつに幽閉されて逝くが
わたしはわたし以外のあらゆるものをわたしとして
なにひとつせず残さず時そのものとなっていく
わたしほど恵まれたものも少ないだろう
わたし以外のすべてとなって時そのものとなり
いることといないことのすべてにすでに成っている                                 
   






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