ぐっと寒くなった夜
大通りの
人もまばらな信号で待っていると
となりに女が来て
立ち止り
通りを向いて
信号のかわるのを待っている
数日前や
数週間前にも
電車の中や
どこかの大きな駅の構内で
何度かすれ違ったり
隣り合わせた女たちによく似て
中背
染めた赤っぽい栗色の髪
髪に隠れてよくわからないが
丸そうな顔
髪は長く
よくまとまっていて
胸より下まで伸びている
もし裸なら
乳がすっかり隠れてしまうぐらい
房のように垂れている
どうして
近頃
おなじような女たちと
すれ違ったり
隣り合わせたりするのだろうと
思う
わからない
あたり前だが
わからない
けれども
こんなに豊かな髪は
大病の時や
死の近い時には
たいそう不便だろうと思えた
入院していたら
この髪は洗うのに不便だろう
女たちは病床では髪を諦めざるを得ない
髪への執着を離れよ
離れよ
それが幾ら数年後でも
数十年後でも
髪を捨てよ
もう信号がかわる頃
わたしは無言で
しきりに隣りの女に告げ
曇天を見上げ
近く遠くのビルを見
車の流れがヒタッと止まって
そこだけ潮の引くように不可思議に
横断歩道に空間ができるのを見て
隣りの女から
永遠に離れ
わたしだけの未知へ
踏み出した
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