Je vais encourir bien des reproches. Mais qu’y puis-je ?
Raymond Radiguet « Le Diable au corps »
ふつうの人なら
とてもではないが耐えられない人生を
なんとか
忍んできたんだね、と
今
ひとりだけは知っている…
幼時から家庭は崩壊していたこと
大病に少年時代をすべて奪われてしまったこと
全霊を賭けたいくつかの仕事や企画や活動は
うまく進んで成功していったところで
どれもこれも
土台から崩されたこと
一般人の中に紛れてうまい汁を吸う姑息な悪人たちに苦しめられた こと
体だけでも生きのばさせるために
21世紀に入ってからは
なにひとつ積極的な活動はしないこととし
新たなものにも場にもまじわらず
影のように街の端をすべり
ひたすら
隠遁し続けることにしたものの
心は
とうに死に切っているし
どんな感情も
もう
持ってはいないこと
なにもかもは
散文でこそ詳細に書くつもりだが
登場人物のモデルたちがもう少し死に切るのを待っているところだ と
いうこと
いま書いている此れのような
分かち書きの言語配列では
努めて
抽象的に
曖昧に
そろそろ書くことに没入していく散文の青写真になるような
メモを
とにかく次々記していくのが
本当の狙いであったこと
ふつうの人なら
とてもではないが耐えられない人生を
なんとか
忍んできたんだね、と
もうひとり
知っていたが
逝った
…だが、いいんだ
ふつうの人が人生と呼び
奇妙にも大事にする時間と空間
それは
たゞの素材の倉庫に
過ぎないのだから
ラディゲが作品冒頭に記したように
「ぼくはずいぶん批難を受けることになるだろう」*
そう前置きするべき
膨大な書き物の群のための
たゞの素材の倉庫に
過ぎないのだから
何年も
何十年も経ってから
死の瞬間まで
全く忘れることなしに
書き記すことによって報復する魂が存在する
水に流すということをせず
そう恨んだりしているわけでもなしに
たゞ死者たちをつぶさにルーペで見直し
解剖し
彼らの価値観を分解し尽くして
けちで愚かな横暴家だったと残そうとする魂が存在する
人間の根源的な愚劣さ
無意味さ
救いようのなさを文字に刻もうとする
どうやら
生まれた星を完全に異にする魂が
存在する
*レイモン・ラディゲ『肉体の悪魔』冒頭
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