ちょっと海の家に立ち寄ったら
けっこう込んでいて
なんとかもぐりこんで座らせてもらったが
泳ぐ気もなしに
ふらふらと浜歩きに来ただけのわたしは
汗をかいているとはいえ
アロハっぽい乾いたシャツを着ているので
まわりの水着のひとたちが
ずいぶん濡れているのがちょっと気になったが
まぁ海の家なんだから
とじぶんをなだめながら
なにか冷たい飲み物でも頼もうかなと思っていると
となりの髪の長いビキニの女が
急にからだじゅうを震わせ出したので
どうしたんだろうかと見ていると
砂や海藻まで付いた髪の毛が一本一本首をもたげ出し
目はカッと見開いて血走って
両手の先は引き攣ったように指を鷲の足のように開かせて
魔女ゴーゴンのようになってきたので
こりゃあ離れないと痛い目に遭いそうだなとわかったので
せっかくの海の家だったが
すぐに立ち上がって逃げるように出て行ったら
なぁんだ
机の上にうつ伏せになって座睡していたじぶんに戻り
へんな夢を見たものだなぁ
気持ちわるい女を見てしまった
と気分を転換しようとして
時計を見ると
午後1時50分
そうだな
こちらの世界でも現に海に来ているのだから
目の前のプライベートビーチに出て
ちょっとひと泳ぎしてくるか
とドアを開けたら
目の前に魔女ゴーゴンが立っていて
爪を立てた手のひらをこちらに向けて攻撃姿勢になっていたので
あんた
夢のなかにいたやつだよ
と言ってやると
そうだよ
ここだって夢じゃないかさ
と返して来たので
そりゃそうだ
あんた
なかなかいいこと言うなあ
と返し
これもなにかの縁だ
ちょっといっしょにひと泳ぎして来ないかい?
と誘うと
いい考えだわ
と受け止めて腕をわたしの腕に絡ませてきて
たちまち豊満な乳房と巨岩のような腰の美女に変わり
魔女ゴーゴンであることをやめてガイアになり
わたしはそれまでカオスであると思い込んできていたのに
ウラノスであったことを自覚して
こうして
わたしのじぶん探しの長かった旅は
ふいに
終わりを告げたのであった
それ以降のことは
人間諸君もよく知るとおりで
ガイアはずいぶんたくさんの子をもうけ
できの悪い巨人どもをわたしが嫌ってタルタロスに次々幽閉したの を怒って
わが子クロノスをして
わたしの逸物を切り取って海に投げ捨てさせ
まったくひどいDVをわたしは受けたわけことになるわけだが
それでも
わが逸物が立てた泡から
あのかわいい美しいアプロディテが生まれたのは
やはり
不幸も不幸
大不幸中のさいわいと
せねばならぬことであったか
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