2019年6月4日火曜日

街を吹く風がつぶやいている




「大丈夫よ、ワタナベ君、それはただの死よ。気にしないで」
村上春樹『ノルウェイの森』


街を吹く風がつぶやいている

……どこへ行くにも、なにを買うにも、
消費なのだから、消費税は付きまとうねぇ
だから人びとはなるべく買わないようにする
そうすると、企業は企業で、商品を値上げしたり、
値上げしない場合にも、商品のサイズや容量を微妙に減らしたり、
内部留保金とやらを溜め込んだりして、自衛しようとする
国内消費は冬だねぇ、ぐんぐん冷え込んでくる

街を吹く風がつぶやいている

……若者も減っている、少子化も加速している、
新卒を採用して一から大事に育てるような人事も崩壊している、
数人でやるべき仕事を一人の社員がしなくてはいけなくなってきている、
能力や経験がある人にばかり仕事は集中する、
そんな人がひとりで支えないといけない部署や、
小企業や零細企業ばかり
割の合わない仕事でもほかよりはそれが好きだし、
ほかのことはできないし、と、辞めずに続けているうちに、
人はみなすぐに歳をとってしまう、
その後の就職先など、もちろん、見当たらない
そこで積んだ実績や経験が十年後二十年後には、もう役立たない
日々の生活を凌ぐのでさえぎりぎりで、
家庭をなんとか維持してるだけでは、貯蓄などままならない、
新たなことへの資金などない、
新展開もありえなければ、独立も永遠にありえない
街の工場で地道に築き上げてきた家族経営の店舗や会社や小売業者
跡継ぎを育てる余裕のある環境など縁がない
景気が回復しないのに、元請けや消費者や役人には安く買い叩かれ
本来なら価値のある良いものさえ、正当な対価では売れなくなっている

街を吹く風がつぶやいている

……求人があっても、条件は経験者優遇、
雇用均等法にしたがって表向きでは採用資格に幅をもたせても、
内情は偏っていたり、はじめから決まっていたり
ワンマン経営でパワハラやモラハラ、セクハラが横行している会社いっぱい、
即日で辞めていく社員いっぱい、
人を見る目がない経営者の自業自得が社会の根元を侵食していく

街を吹く風がつぶやいている

……銀行に融資やサポートを求めても
彼らは彼らで相手の経済実態をしっかり認識しているから、
ザルの目はどんどん細くなっていき弾かれて
残るのは巨大資本のスーパーマーケットだけだったり
一企業で全ての消費サイクルが賄える巨大企業だけになる
それと同時進行的に繁華街や人が住む街はシャッター街の廃墟と化していく。

街を吹く風がつぶやいている

……年金が80歳から支給になるとの話が出ていて、
それどころか、すぐにも、無支給が宣言されるらしいとの推測も飛ぶ
蓄えもなく、身寄りもない人は、生活設計どころか
死までの時間を、これからどう繋いでいくのか
からだは年々衰えていくばかりだから、ちょっとやそっとの健康法や、
運動ぐらいでは、結局は落下していくばかりのグライダー、
からだを維持し、故障した箇所を直すとなれば、
機械や家とおなじように、医療費だってずいぶんかかる
病院に行けば行ったで、何時間も待たされ、初診料は取られ、
こちらの薬学無知をいいことに、訳のわからない薬を多量に処方され、
生きたままの実験台にされ続ける

街を吹く風がつぶやいている

……
せめてもの気晴らしに、ちょっと行楽にでも、と思っても
国内で遊ぶには、あまりにも金がかかる
交通費はけっこう高くつき、宿代ももちろん高く、
たいして美味くもないのに、食費もかさむ
施設の入館料がタダのところなんてほとんどなくて、しかも、高い
日本のロードショー価格は世界一になったとか聞くが、本当かね?
格安ツアーを予約したら、したで、
売店から売店へ連行されるばかりで、土産物を買え買えの猛攻
蕎麦一枚、うどん一杯食べるのに長蛇の列

街を吹く風がつぶやいている
と思ったが
街を吹く人のようなものだったか、影だったか、
それとも、たんなる雰囲気だったか、

戦後は奇跡とも言われた繁栄を実現した国が
変われば変わるものだよねぇ
船頭役が舵取りをちょっと間違うだけで、暗礁にいくつもぶち当たるのに、
ちょっとどころか、宗主国に刃を突きつけられての、
はっきり意図しての、一億火の玉本土決戦の焼き直し、
滝壺もそろそろ目の前に来ていて……




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