インド料理店スルターンから道を挟んだ向かいの街灯の影に
帽子まで被った黒づくめの眼鏡の女が立っていて
こちらを見るなり急に路上に唾を吐くと
なにごとかブツブツと話し始めながらこちらに向かって来そうだったので
こういうのは避けたほうがよさそうだと思い
実際急いでいたこともあって足を速めて大通りのほうへ進んだ
女はわたしの後を追ってくるようにしてやはり大通りのほうに出てきて
信号待ちをしている人々のなかを抜けて
ずんずんと追って来ようとしている
信号はすぐに青にかわったのでわたしはさらに足を速めて渡り
その後すぐに細い路地から路地へと歩み入っていったので
女はもう着いて来られなかった
ただこれだけのことだったが
まことに今どきの世の中の住人らしからぬことを言うが
わたしはあの女がじつは亡霊か死神のたぐいだと思えてならない
というのもその後いろいろなひとの後ろにあの女が付いていて
付かれたひとたちがわたしの目の前で卒倒したり
車に弾き飛ばされたりしたのを目撃したからである
卒倒したり車に弾き飛ばされたりしたひとたちが
その後はたして死んでしまったか命を取り留めたかわからないが
多い場合には大きな交差点で信号待ちしているすべてのひとたちの
ひとりひとりにあの女がくっついているのを見たので
いったいどういうことなのかわからないながら
よほどの禍々しい事態が発生しつつあるのだろうと思わざるを得ないのだ
どうしてわたしの場合はうまく女から逸れることができたかわからないが
そういえばこのあいだあなたをお見かけした際に女が付いていたことは
やはりお知らせしておいたほうがいいような気もするし
わたしたちの知りあいであったり親しかったりするあのひとたちや
このひとたちのネット上の名前にもぴったり女がくっついていることも
やはり当人たちに知らせたほうがいいかもしれないと迷うところで…
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