おとといだったか
目覚めると
何十年も前に住んでいた家の二階で目覚めたような感じで
驚いたというより
じぶんの物語のどのあたりを生きていたのだったか
と
迷うようだった
夕方ちかく疲れて帰宅して
ちょっと畳の上に横たわったまま寝落ちしてしまい
目覚めるともう七時頃になっていて
そうだ
どうしても買い足しに行かなければならないものがあるのだった
と思いのむかう先の店々は
当時住んでいた家から出かける商店街の店々で
急げば十分ほどだが
ふつうに歩いて行けば十五分ほどかかるので
今日の夕飯つくりはずいぶん遅れてしまうと考えつつ
どこかで食べることにしようか
などとも思いついたりはするものの
そういえばいっしょに住んでいる彼女は八時過ぎに帰ると言ってい たから
やはりはやく買い物をして戻ってこないといけない
と思い直し
出かける準備をいそいで始めるのだった
スマホどころか携帯電話さえまだない時代だから
八時過ぎに帰ると朝に聞いたら
鍵くらいはひとりひとり持っていても
やはり夜は八時過ぎにはここに自分がいないといけない
そのように生活のリズムや秩序ができていた時代だったのだと
もちろん何十年も前の自分ではもうないのに
それでも身体は十五分ほど離れた商店街に向かおうとしていて
そういう身体はもちろん自分の思いのなかの身体で
あゝ、これらはすべて過去のことではないか!
ぼくはいまぼくの生涯のどのあたりにいるのだったっけ?
どのあたりの生の住処で目覚めたのだったっけ?
とちょっと必死になりかけて思い出そうとして
ハッと身を起こしてみると
まるで
昔話によくあるようなふうで
建物もなにもあたりにはない草ぼうぼうのなかに
たったひとりで上半身だけ起こした自分がいるだけなのだった
作り話でなどなく
ほんとうにほんとうで
だから
このことを誰かに話しようもなければ
書き記したりできようわけもなく
ただ頭のどこかで自分にぼんやり物語っているだけのことだから
あなたになど
もちろん届くわけはないのだし
あなたが読んだりできるわけもないのだから
あなたが知ってなどいるわけがない
断じて
ない
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