2020年11月13日金曜日

きさまがるす

 

幼稚園に入ると

てかてかに塗られた

お道具箱という木箱があって

そこには白い太い字で

するがまさき

と書かれてあった

 

迷子になった時なんかに

じぶんの名前を言えるようにと

するがまさき

するがまさき

と小さい頃から

覚え込まされていたけれど

文字で見せられたのは

たぶんはじめてで

するがまさき

するがまさき

と発音しながら

まるで他人のように

まるでべつの生き物のように

なんどもなんども見つめた

 

そのうち逆から

きさまがるす

とも読んでみるようになって

なんだか

ずいぶんドスの効いた

怪獣もどきみたいだと思ったが

きさまがるす

きさまがるす

とくり返しているうちに

じぶんのべつの顔のように感じてきて

こいつ無視できないな

などと思って文字を見る

 

ガメラのライバルの

ギャオスが登場した時には

じぶんのほうが先に地上に来ていたぜ

などと思ったりした

キサマガルス

とカタカナで書いて

想像のなかでギャオスに対抗したり

三菱の自動車ギャランができた時には

キサマギャラン

なんて言い換えて

自転車を自動車っぽく乗りまわしたりした

 

貴様が留守

なんて

漢字で思い浮かべるようになったのは

だいぶ後になってから

小学校高学年の

受験用の漢字のドリルを

さんざんやらされるようになってから




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