2024年11月19日火曜日

直指人心


 

仏陀が後継ぎを決めるとき

コンパラゲという花を手に持って

弟子たちに見せた

摩訶迦葉だけがそれに微笑んだので

仏陀は彼に後を委ねた

 

いわゆる拈華微笑の言い伝えで

この言葉はそのまま

以心伝心の意味でも使われる

言葉や論理を仲立ちにせず

悟った者どうしで共鳴し

感応しあうことを指す

 

しかし仏陀にしても

コンパラゲの花を見せるという

表象を用いる手を使った

そうして「コンパラゲの花」という

デノテーションではなく

この場合に仏陀が込めたコノテーションを

つかめる者がいるかどうか

試したわけで

摩訶迦葉だけが

それを受け止めたことになる

 

達磨の場合

なにものをも介さずに

心を直接示すということで

直指人心というが

こちらのほうが

記号の意味作用の森に入り込まず

すっきりしている

 

覚者の境域に遊ぶ者が

言葉や論理や表象にかまけていては

話にならない

そういったものは

人界で秀才をてらう者たちに

一生を無駄にするにふさわしい絶好の玩具として

くれてやっておけばよい

 



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