2020年7月24日金曜日

見た夢のひとつに過ぎないが印象は強く



見た夢のひとつに過ぎない。
見た夢のひとつに過ぎないが印象は強く、目覚めても
雰囲気のつよい体感は、いつまでも続いていた。
しばらくその雰囲気の中にいた。

店の建ち並ぶ庶民的な通りとして有名で、いつも買い物客や
たむろする人たちや、あちこちで遊んでいる子供たちや、
道行く人を眺めたり、声を掛けようとしたりする若者たちでいっぱいで
急いで歩いて行きたい時にはいらいらさせられる通りだった。

近くに来たので、特別買っていく物もないが、
せっかくだから寄っていこうと思い、その通りに入ってみた。

誰もいない。
道を間違えてしまったのか、と思った。
しかし、通りの始まりにある門のようなものは変わらないし、
そのすぐ近くにある、季節季節の花を飾っている植込みも変わらない。
ここのはずだ。

そう思いながら前を見直すと、驚くというより、ゾッとした。

確かにここが、いつも大賑わいの通りだ。
しかし、誰も歩いていない。
それどころか両脇にあれほどたくさん立ち並んでいた店が壊されている。
シリアの空爆の後の街の空撮を見たことがあるが、
すべてが破壊されて、ひどい虫歯ですべての歯が侵蝕された後のように、
コンクリの瓦礫だけになっていた。
それに酷似した風景がずっと向こうまで続いている。
シリアの空爆後の街ほど皆無になっているわけではない。
店の景観を留めているところもたくさんあるが、どこも正面は
剥がれ落ちていたり、看板が半分落ちてぶら下がっていたり、
建物の正面が失われて、がらんどうの中が見えるようになっていたりする。
店が建ち並んでいたのに、どれも、もう店の体は成していない。
正面のところをたいへんな力で雑に剥ぎ取られていったように見える。

しばらく行くと、この通りの名物の大仏があったはずだが、と思って
探してみると、あ、あった、あった。
あったが、もう大仏ではなくなっていて、腰から下だけが
かろうじて残っているだけの姿になっている。
もともと建物の覆いはなく、通りから顔までの姿が見上げられていた。
それほど大きいものではなかったが、それでもビルの3階くらいはあった。
それがぜんぶ壊されてしまい、腰のあたりにギザギザだけが残っている。

大仏からもう少し行ったところには辻があり、左側は上りになっているが、
そちらのほうも見てみても、やはり家や店は壊されてしまっている。

誰もいないとはいっても、ときどき、薄い色の服を着た人が、
ふらふらと、ぼうふらのような動きで歩いている。
人には違いないが、なにか聞きただしてみても、答えてはくれそうにない、
どうにも頼りない、というか、あまり関わりたくない感じの人たちである。

あゝ、こんなふうになってしまって、と思いながら、
行きつ戻りつし、この先、まだ20分ほどは続いている商店街なのだが、
行き続けても無駄だろうと考えて、踵を翻して戻ることに決めた。
それにしても、どうしてここまでになってしまったのか、と
腑に落ちない気持ちで、異様な廃墟を振り出しまで戻っていく……

見た夢のひとつに過ぎない。
見た夢のひとつに過ぎないが印象は強く、目覚めても
雰囲気のつよい体感は、いつまでも続いていた。
しばらくその雰囲気の中にいた。




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