2022年7月21日木曜日

青いゆうぐれ

  

竹林のわきの

夕子の家から出ると

驟雨も

降りやむところであった

音が違った

庭の小石を叩いているはずであるのに

まわりを吸うような

音とも言えない音である

 

さきほどの汗も

吸われていくようだった

 

もう一度

流していかれればいいのに

玄関口で

夕子は言ったが

 

そんなことを

すれば

もう一度

きみの肌に吸われてしまうだろうさ

 

そう言って

庭に出たのだった

 

雨のあいだは止んでいた

虫の声が

そこここで

始まっている

 

いいね

青いゆうぐれだ

 

このところ

続きますわ

青いゆうぐれが

 

夕子は言って

石膏のようなうなじに

指をやった

 

柴扉を開ける時

ふりかえって

庭の奥のくらがりを見た

 

夕子のうなじがまぶしいようで

すこし

目を逸らしたのだ

 

よく見えないが

そのあたりに

数年前

夕子が愛した子猫の墓がある

この頃は

話に上ることもないが

かわいい子猫だった

 

柴扉に手をかけながら

いまも

話に出そうとは

思わない

 

驟雨は

子猫の墓も濡らしただろう

 

青いゆうぐれが

子猫の墓も染めるだろう





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