明日の夕方には抜けるだろうが
嵐が居座って
とにかく
今夜はもうひと晩
この宿に
居させてもらうしかない…
さいわい
嵐のおかげで
次に予約を入れていた客は来れないから
同じ部屋に泊まれると
宿の者が言いに来た
文夫は
すこしさびしい気がした
この地の次に
風光明媚な岸壁で有名な
絶青海岸に行く
心づもりをしていて
気分が乗れば
そこで死ぬつもりだったのである
なんだか
邪魔されちゃったなあ
嵐のやつに
そう思うと
それはそれで
楽しいような気持ちにも
なってきた
もう
だいぶ昔のことになるが
やはり
同じように
死ぬのを邪魔されて
楽しいような気になって
数日のうちに
人を三人も殺してしまったなあ
いまだに
見つかっていないけれど…
ちょっと値の張る煙草の
グレイシアの灰を
ちょんちょんと
灰皿に落としながら
また
殺しちゃうかもなあ
何人ぐらいかなあ
と
心があかるくなってきて
つい
さっき
入ったというのに
また
温泉に入りに行く気に
なった
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