2022年7月21日木曜日

ミズヒキ


 

大人ではない

 

高校生だというが

まだ

中学生のような

からだつきではないか

 

カズヒロの頬から首のあたりに

なぜか

ふいにこころは衝かれて

いづみは驚いた

 

二十も歳上の夫がいて

息子も

もう

小学三年生である

 

激しい恋愛の末の結婚で

五十後半とはいえ

夫はまだ若々しいし

不満もない

 

学校のサッカーチームで

息子たちのコーチに駆り出されて

家の近い息子と

いっしょに帰ってきて

寄ってくれたカズヒロだった

 

スポーツマンなのに

すこし青い印象がある

細い顔で

目が切れ長だった

 

この子は

たぶん

長生きしない

 

そう思いながら

頬から首のあたりを見た時

カズヒロは

すでに

いづみの心の奥にいた

 

カズヒロが帰った後

庭で引き抜いたミズヒキを

三本

寝室の花挿しに飾った

 

遅く帰ってきた

夫の高宏は

いいね

ミズヒキか

と言って

しばらく眺めていた

 

高校生の頃

ミズヒキの好きな二十代の女に

はじめて

手ほどきをしてもらったのを

高宏は思い出した

 

その後の人生でも

出会ったことのないような

美しい顔の女だった

 

ミズヒキ

いいね

 

高宏は

いづみの脇に身を横たえて

また

言った





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