2022年7月26日火曜日

等閑世事任沉浮

   

 

等閑世事任沉浮。

 

大正六年

永井荷風は書幅を掛け替える

そのうちの王一亭のものに

この文言が見える

 

あゝ

こんな気分だな

遠い世の

荷風先生の思いにも

王一亭の思いにも

共鳴

 

ひさしぶりに

断腸亭日乗を繙く気になって

巻之一を開けてみると

これに出会った

 

九月十六日、秋雨連日さながら梅雨の如し。夜壁上野書幅を挂け替ふ。

 

とあり

雨のさまを簡潔に伝える

なんでもかでも

ぐたぐた長く長く書き垂れ流すムラカミハルキふうに汚染された

ニッポンの文章界には

これはいい薬

 

九月十九日。秋風庭樹を騒がすこと頻なり。午後市ヶ谷邊より九段を散歩す。

 

たまたま

そのあたりを地元としているので

昔のこととはいえ

荷風先生の散歩道の

右左

あちらこちら

ちょっと

想像がつきやすい

 

靖国神社の前をちょっと行けば

かつて

硯友社のあったところ

尾崎紅葉には

荷風先生は会ってはいないと思うが

泉鏡花には

会っていたのかしらん?

 

ともあれ

荷風先生三十九歳にして

堂々たる隠居ぶり

 

むろん

下のほうは御壮健であられたようだが





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