蕾はちゃんと付いていながら
桜の花の咲くのが
これほどぐずぐずとして
なかなか咲き出さないというのも
めずらしいのではないか
おかげで
ひとつひとつの
蕾のあたりを
毎日
見つめてみることに
なった
そうして
はじめて気づいたが
蕾といっしょに出てくる
細くまとまった
みどりの葉の部分が
とてもうつくしい
毎年のように
ひろがる前のこういう葉の部分も
目にしていたはずだが
何日も続けて
蕾のあたりを見つけたので
ようやく
つよく意識に残るように
なったのだった
あっという間に開花してしまえば
どうしても
ひろがる前の葉の美しさには
意識はむかわないまま
目は花ばかりを追ってしまう
若山牧水は
山桜が咲こうとするところを
うすべにに葉はいちはやく萌えいでて咲かむとすなり山ざくら花
と歌ったが
ソメイヨシノの花が咲こうとする頃には
なかなか濃い
みどりの葉が筒状になって
花柄のわきに伸びてくる
みどりの
開く前のこの葉の
うつくしさに
意識をじゅうぶんに留めることができたのは
花の開花を見るのと同じくらい
よろこばしいことだった
桜の花が
ことし
なかなか咲かないでいてくれた
おかげといえる
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