桜並木の続く千鳥が淵の一所には
菜の花が群生していて
ことのほか
美しい場所があった
千鳥が淵戦没者墓苑に近いところだったが
桜と
菜の花の黄色と
晴れていれば空の青さとが
いっしょに目に入り
濠の水のきらめきもいっしょに見えて
写真を撮るひとたちには
毎年のように
恰好の撮影スポットとなっていた
それが
今年2024年には
消滅していた
菜の花は根こそぎ刈り取られて
丈の短い雑草が
地面に生えているだけになっている
昨今目立つ
悪い整備のしかたのひとつ
と見えた
ポイントになる
ひとつの植物だけを残して
ほかの植物を除いてしまったりする
あるいは
なにかのオブジェだけを目立たせようとして
まわりの植物を抜いてしまう
イギリスふうの
さまざまな植物が集まって生え
雑然としているようでも
季節ごとに
多様な景観をもたらす造園や
日本の昔の
手入れのされなくなった荒れた庭の
紅葉したり
とりどりに花を咲かせる雑草の群れ繁るさまの
好きなわたしには
さびしいこと
この上ない
人造的な庭づくりに
見えてしまう
千鳥が淵などは
そもそも庭ではないのだから
菜の花が咲き乱れている一画があったほうが
あの濠や傾斜にふさわしいのに
なんでも小ぎれいに整え
高層ビルの下にちょこっと設ける
管理し過ぎの庭のようにされてしまっては
せっかく自然っぽさが淵に残っていたというのに
削ぎ落とされてしまって
ひたすら管理思想へとのみ傾斜していく
現代社会の表象としてしか
見えなくなってしまう
失われた菜の花の姿を
千鳥が淵の
昨年まで咲き乱れていた菜の花のあった場所で
つよく
はげしく
思い出しながら
わたしの脳の言語野にフッと蘇ったのは
山村暮鳥の
あの菜の花の詩だった
近代日本語の詩として
絶唱のひとつであり
文でなく
文章でなく
短歌でも俳句でもなく
メール文でもなく
SNS文でもない文字表現として
格別の完成度を示した
あの詩だった
風景 純銀もざいく
山村暮鳥
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
かすかなるむぎぶえ
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
ひばりのおしやべり
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
やめるはひるのつき
いちめんのなのはな
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