季節によって
稲であったり
麦であったり
住み出したころは
秋もさかりで
稲穂がいっぱい風にゆれ
夜中に風が吹いたりすると
稲穂のぶつかりあう音がし続けて
なんだか特別な
ぼくだけのための催し物のまんなかに
横たわっているようだった
田んぼのどまんなかに
小さな掘っ立て小屋がぽつんとあって
それがぼくの家で
ちょっと心細い感じもするが
無数の稲や麦に囲まれていると
ちょっとこころ強い感じもするのが
ふしぎなところだ
いろんな経験を
いっぱいしてきたので
ぼくにはもう
小さな掘っ立て小屋で
じゅうぶん
ながいこと書きためた
じぶんの文や詩歌などを
読み返すだけで
たいていの夜は更けていく
この世の本はぜんぶ読んでしまったので
それらからエキスを吸った
ぼく自身の書きとめだけで
もう
じゅうぶん
そうして
日中の黄金色の穂の揺れるのを
窓から眺め
ときどきは外に出て
たくさんの穂にからだをくすぐられ
夜には月あかりが
銀や金に穂先を光らせるのを
夢の実りのように見て
いつもいつも
思うのだ
もう
じゅうぶん
ほんとに
もう
しあわせいっぱいに
じゅうぶん
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