2024年6月3日月曜日

衆!衆!衆!衆!衆!

 


  

‘Don’t waste time. He’ll be back any minute.’

‘Light a cigarette for me.’

I stood beside her, touching her knees.

She came to her feet with a sudden lurch.

Our eyes were only inches apart.

Raymond Chandler THE BIG SLEEP

 

 

 

 

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仕事のあとで日比谷公園に向かった

 

日比谷公園を起点として

WHOから命をまもる国民運動大決起集会」が開かれ

デモ行進の行列が銀座や京橋のほうへ進んで行くはずなので

その一部でも見ようと思った

 

しかし

日比谷に着いたのは18時過ぎで

日比谷公園の園内も周辺もしずかなものだった

野外音楽堂に集まって

いろいろな演説が行なわれたとXで見ていたので

そこまで行ってみて

その後は後を追うかたちで銀座などを歩いて行こうかと思った

 

ところが

日比谷公園にはみどりがあり

花があり

時期が過ぎたとはいえ

まだバラも咲いているのである

 

そうしたら

みどりやバラを楽しんで行きたいではないか!

 

ということで

あちこちでバラや植物のあれこれに引っかっかって

写真だって撮ったりして

だんだんと野外音楽堂に近づいていったが

あいかわらずの閑散たる空気で

なんだか『宴のあと』である

 

おお! ミシマさん!

日本っていうのは

なんだか

いつでも『宴のあと』である

いつでも後追いである

あなたが『宴のあと』セップクをしたくなったのもわかる!わかる!

があなたはすっごくブザマな後追いセップクをなさった!

そのブザマさが

まあ

よかったッちゃあ

よかったんだけどネ

 

なあんだ

日比谷公園では

もう

終わっちゃってんのか…

 

じゃ

ちょっくら

銀ブラでもしてくか

 

と歩き出して

しかし

銀座もべつに面白いものもないし

来るたび

あんなにたくさんCDを買い込んだものだった山野楽器なんかも

もうCD販売をしなくなるそうで

いよいよ面白くなくなる銀座なわけだし

木村屋であんパンを買っていく?

と一瞬思いはするものの

あれって

じつはあの小ささのわりには調子こいて高値で

もちろんまずくはないものの

結局お上りさん用の子どもだましなので

やっぱり行く気が失せて

線路の高架下の汚げな飲み屋街をひやかしながら

有楽町から東京駅まで歩いて行った

 

どこかの店に引っかかって飲んでいくつもりもないので

店を見ながらただ歩いて行くだけだが

最近はあまりここを歩かなかったのでけっこう面白かった

それにしても金曜日ともなれば

16時頃からはもう飲んでる!飲んでる!飲んでる!

楽しい週ごとのサラリーマン生活の区切りの付け方ですな!

ぼくだって2030代の金曜日は

勤め帰りに飲まないで帰ったことはほぼなかった

居酒屋での飲み食いのあの酸っぱさの漂うヘンな味覚の感じ

ほんと懐かしいよ

 

東京駅に着いたわけだが

有楽町から東京駅へと高架下を歩いてくると

東京駅というものはずいぶんと違った様相で見えてくるのを知った

高架下の汚げな飲み屋街と違う

ドッと言わんばかりの人体の多さにも驚くが

なんというか

WHOから命をまもる国民運動大決起集会」とか

デモ行進とかに

一切興味を持たない観光客たちやビジネスマンたちや

なんだか知らないが

なんだかんだとそれなりに用事があって集まっている人体ばかりで

いくら集会やデモに1万人だの2万人だの

さらに多く見積もって5万人だのが集まったところで

そんな程度ではさざ波も立たないほどのマス!でございなのだ

集会やデモに集まった数万人など

なにもなかったかのように埋没させてしまう

波に揺れ続ける圧倒的なオキアミのゆさゆさのような大衆!群衆!

というか

ただの衆!衆!衆!衆!衆!

 

今にはじまったことでもないが

政治のぐちゃぐちゃさや社会の危機に一切興味を持たない

目先の楽しみにだけ盲目的にブンブン飛んで行くだけの大衆というのは

ほんとうにどうしようもないほどの衆!衆!衆!衆!衆!で

これに勝てるのはヒトラーさんやスターリンさんぐらいのもの

彼らに負けじと現在いわゆるDSさんたちが仕掛けているわけだが

大衆というのはすぐとなりの誰かがどうなろうと気にもしないもの

となりの誰かの次にはじぶんにロシアンルーレットの弾が来ても

それはそれ

運が悪かったねえ

で済ましてまた次の大ジョッキを注文したりするものなので

彼らに危機感を抱かせるには

数百万や数千万の単位で間引きをやってみせるしかないことになり

まさに今DSさんがせっせとそれを試しているわけだ

 

こりゃあ

WHOから命をまもる国民運動大決起集会」の連中

大衆とか戦後日本のどうしょうもなさとか

現代社会の大衆のいっそうのどうにもならなさとかを

あきらかに見誤っているな

と思いながら

どこへ向かう遠距離バスにも長蛇の列ができているのを見

その前に並んでいる簡易レストランのバカ高い値段を見

寿司のテイクアウトなんか平気で3000円だの4000円するのか!と驚き

あらゆるテイクアウトには食品衛生法上必ず

次亜塩素酸ナトリウム消毒液をシュッシュしなきゃいけないのだか

うまいわけがないのになあ

よくやるよなあ

よく買うよなあ

やっぱり味覚の狂った大衆用の子どもだましなんだろうな

と思うだけでも疲れてくるので

もう早く早く駅のむこうの丸の内へ出て

サッサと家まで歩いて帰ろう!

なんせ今日と来た日にゃ仕事帰りだというのに

もう15000歩は歩いてるんだからな

と東京駅地下に潜ったら

みなさんご存じのとおりにもっとひどい大衆の泥沼になっていて

ああ!

衆!衆!衆!衆!衆!

衆!衆!衆!衆!衆!

衆!衆!衆!衆!衆!

なにが面白くて東京駅地下にわんさとぶちまけられている

下らない子どもだまし商品や土産物やを買ってくひとがいるんだか

と思うとよけいに疲れてくるので

とにかくサッサと歩き進んで

途中からOAZOのほうへと通路方向を変えて

どうせなら

丸善に寄っていくべぇか?

と思って地下を歩いて行ったら

ちょっとは本や文化の雰囲気が空中に漂ってきたせいで

人の数がほんのちょっとは減ってきて

ああちょっとは息ができるわいと思ったら

中華屋があって冷やし蕎麦がうまそうに写真に出ていたので

丸善で本疲れする前に食べておこうかな?

と一瞬思ったもののランチ用の写真とわかって諦めたのだった

 

丸善では

これといって買うものもなく

ただ

ひやかしもいいところであれこれ見ているだけだったが

自分が持っている本よりも

最近の『赤と黒』のほうが字が大きくなっているなあ

とか

『レ・ミゼラーブル』もずいぶん分厚くなっちゃっているけれど

最近の研究成果の註をごっそり盛り込んだのかしらん?

などと見ているうちに

どうしても英語のサスペンスものやクライムものを見たくなり

あれこれ見ているうちに

レイモンド・チャンドラーのペンギン版の本が

なかなかいい感じじゃないか

チャンドラーといえばアメリカ版のほうが原産な感じだが

アメリカ版のあれこれを見るとけっこう字が小さめで

ペンギン版のほうがなんかクリアに見えるなあ

と感心しているうちに

チャンドラーのあのクリスタル・クールな文体にグォーッと惹かれて

数冊買って帰りたくなり

フィリップ・マーロウを登場させた第一作のTHE BIG SLEEP

第二作のFAREWELL, MY LOVELYとを買って

帰ることにした

 

チャンドラーは

村上春樹の後追いがしたくないので買うのを避け続けなのだが

それでもいくつかは買ってあるし

家に帰ったらやっぱりFAREWELL, MY LOVELYはじつは買ってあって

それならTHE LITTLE SISTERでも買って帰ればよかった

とちょっと後悔したが

なんどとなくくり返してきた

これも

後の祭りのひとつ

 

でも

ペンギン版のFAREWELL, MY LOVELYの裏表紙には

すてきな引用がしてあった

 

I needed a drink,

I needed a lot of life insurance,

I needed a home in the country.

What I had was a coat, a hat and a gun.

I put them on and went out of the room.’

 

ああ!見給え!

現代の詩歌が失ったものが

チャンドラーにはある

 

すでに

家に本が買ってあったりしても

また買っちゃうだろ

そりゃ

 

そうだとも!

 

こんなふうに買っちゃうことが

なによりも心高鳴るエンタティメント

であることが

ある

 

 




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