2015年1月12日月曜日

洗ってやったらいいではないか



  
孤独に死んで
しばらくは気づかれず
じわじわ
腐っていったのらしい

後の部屋に入り
掃除をし
遺品を整理し
処分する
業者の仕事ぶりを見たが
なかなか
丁寧な仕事ぶり

人づき合いの少ない
学のある老人だったらしく
日々の日記には
世間のニュースも点描され
字はきれいで
書棚にはきちんと
本が重ねられていた
必要最小限という感じの家財も
適切な間隔で置かれていて
よけいなものがなく
かといって
寒々しい雰囲気でもなかった

孤独死
という言葉に
ちょっぴり身がまえ
どんなわびしい光景か
寒々しく
禍々しい部屋かと
見続けていたが
部屋でひとり最期を迎え
死んでいった老人の
最期までのきれいな生きぶりに感心し
みごとなものだと
敬意さえ持った

ひとりでの死は
この人にとっては
さびしくもなく
悔やまれることでもなかっただろう

見つかるのが遅れ
すこし腐ってしまったとしても
それぐらいが
なんだというのか

ひとり静かに生き抜いてきて
誰にも迷惑をかけず
騒ぎたてず
うるさく纏いつかない生だったのだから
軀という
唯一の所有物が腐って
ちょっとぐらい
汚してしまったところなど
洗ってやったらいいではないか

まだ生きている
軀たちが
まだ腐っていない
軀を
動かして


                                 
   

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