2022年10月2日日曜日

天界あたりの住人なども

  


飼っていると

スズムシの音が

だんだん

枯れてくるのが

わかる

 

喉で鳴いているのではなく

羽根をすりあわせているのだから

羽根がすり減ったり

破れてきたり

壊れてきたりするのだろう

 

羽根を立てる筋肉も

疲れ果てて

衰えてくるのかもしれない

 

毎日

つぶさに見続け

聴き続けていると

虫という姿かたちをとって

あらわれ出てきた命の

不思議さや

哀れさも

こちらの時間に染み入ってくる

 

時間は命だから

時間が命だから

かれらのあらわれかたの

不思議さや

哀れさは

わたしの命に染み入ってくるのだ

 

六月頃に孵化して

生き長らえるにしても

せいぜい

四ヶ月か五ヶ月の

スズムシの命を

ずいぶんと短いような

それでも

そこそこ長いようなものとして

夏から秋

見続け

聴き続けている

 

こんなふうに

人間の生きざまを見たり

聴いたりし続ける

天界あたりの住人なども

きっと

いたりするのだろう

 

ずいぶんと短いような

それでも

そこそこ長いようなものとして

 





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