2023年11月15日水曜日

未来無

 

 

歳を重ねたり

しのびよる秋の気のように

老いや衰えが肌に触れてくるのを感じたり

かつては楽しかったはずの

あんなこと

こんなこと

それらいずれにも

もう心は煌めかなくなったり

なにが目の前に現われても

小さな溜め息や

薄いあきらめのヴェールを通してのみ

それらに向かうようになったり

 

そうなってみても

悪くないこともあるもので

もののいちいちに

分けへだてをあまりつけないようになり

うるさく優劣をつけることにも

まったく頓着しなくなるのも

そうしたことのひとつ

 

大きな初冬の公園の薔薇園で

秋薔薇がまだ美しくかたちを保っているのにも

昼顔や夕顔のすっかり枯れ尽くした

交番わきの鉄柵に

貧乏葛とも呼ばれる藪枯らしが

まだ青々として

淡緑色の花や橙の花盤がしっかりついているのにも

おなじように充実した美しさや

得がたい存在感を感じ

足の赴くところ

すべて

ひとつとして

見落としたくない

もののありように満ちて

見える

 

ひび割れはじめた

アスファルトの道さえも楽しく

このあいだ

雨の暮れがたなど

水道局の消火栓の四角い大きな鉄蓋に

向かい側のローソンの電飾の明かりが反射して

アスファルトに四角く

鮮やかな青いひかりがこの世のものならぬ美しさで揺らめいて

しばし心を奪われた

 

造られてまだ数年も経たない

巨大なビル群のあいだの

いまだきれいな道をたまたま行く時に感じる

非人間的…

とうっかり言いたくなるような

冷たくさびしい印象でさえ

世界というものの今の

貴重な一部分

 

30年も40年もすれば

これらのビル群も古びてしまい

この道もひび割れてしまうだろう

70年もしたら

もう取り壊されてしまっているだろう

ひととき更地となって

その頃に現われ出る

未来無の姿を想い見つつ

この道をかつて歩いて行った私のことなど

もちろん誰も思いさえしまいが

かつて新しく

非人間的なまでにさっぱりと

鋭角的に

キリッとした佇まいだった

ビル群や道々も

その頃には

私とともに未来無の領域に

居どころを

移してしまっていることだろう






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