2024年7月24日水曜日

人間もな

 

 

 

昔より暑くなっている

と皆が言う

のに

ひとりだけ抗して

 

いやいや

昔のほうが暑かった

 

強いていえば

体感的には絶対に暑かった

 

とひとりで

言い続けている

 

なに言ってるんです

昔なんて

夏でも

30℃行くか

どうか

だったんでしょう?

 

などと

言う者さえいる始末

 

それなら

と調べてみたら

たとえば

東京の

19707月は34.9℃

19737月は34.7℃

19747月は34.2℃

と出てきた

 

やっぱり

暑いじゃないか!

 

しかも

この頃は

エアコンなどどこにもなくて

ちょっと裕福な家庭の

居間なんかに

起動する時にすごい音を立てるやつが

たまに置かれていたりした程度

 

国電にもエアコンはないし

地下鉄にもなかった

満員電車など

誰もが汗みどろになって駆け込んで来て

押しくら饅頭して

汗をなすりつけあっていた

 

小中高の校舎にも

エアコンなど入っていないし

大学の教室にもない

図書館にもほとんど入っておらず

まれに一室ぐらいに設置されている程度

 

住んでいたのは

鉄筋コンクリートの中だったので

家の中にいると

真夏の昼間の暑さというのは

ほんとうに

半端ではなかった

子どもながらに

若いながらに

血圧上がりっぱなしだったのが

エアコンのない

鉄筋コンクリートの中の

7月や8月だった

 

大学の

夏休み前の講義なども

忘れがたい

蝉がジイジイ鳴くなかで

大教室の窓を

どれも全開にしてあるのだが

風が入って来ない時など

窓を開けていたって

どうにもならない

仏教の唯識論講義など

内容も内容だから

灼熱の空気の中で幽体離脱しそうだったし

現象学の講義など

どこが面白いのかわからず

必死に聴いているうちに

五次元あたりに行ってしまっていた

 

エアコンまるでなしで

34.9

34.7

34.2

の中で知的生活してみろ!

って言うの

 

ある夏休みに

どう見ても36℃以上に達している

鉄筋コンクリートの自宅で

ちょっと急いで

マルケスの『百年の孤独』の和訳を読んでいた時なんぞ

似たような名前ばっかり出てきて

気が狂うかと思った

読んでいるうちに寝落ちしてしまうので

数ページ戻って読み直すことが

くり返された

 

ドストエフスキーの『罪と罰』も

猛暑の日々

駅に並んで旅の列車チケットを買う時に

読んだものだが

推理小説っぽい『罪と罰』のほうは

暑さの中のアタマでも

けっこう楽しんで

ついて行けた

 

ほんと

昔のほうが

ぜんぜん

暑かったんだぜ

 

人間も

 



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