2014年8月19日火曜日

世にもすばらしいところ




いまの住まいは
世にもすばらしいところ
高級とは程遠いが
これ以上の場所がありうるとは思えない
他人にとってではなく自分にとって
適度な広さ
適度な部屋数
適度な廊下の長さ
適度な闇と明るさ
居間からは戸外のみどり
すこし離れた道をゆく人びとのすがたが
パリのカフェからの眺めのよう
春には花咲く桜の木々が並び
初夏には若く伸びるみどり
空は十分にひらけて
ベランダから見える雲のすばらしい時には
高原や海辺のテラスにも負けない
買い物の便利だし
交通の便もよい
ほんの少し歩けば
四方八方が広大に見張らせる大河に出る

こう記しておくのも
しかし
天変地異が本当に近いから
すばらしいところで暮らしたと
いつまでも満足心を保っておけるようにしたいから
ぎりぎりまでここにいようと思うが
秋からは天候の異常はさらにひどくなる
世界は崩壊過程を早める
自然が人に
人が人に
さらに襲いかかり始める
豪雨
洪水
浸水
土砂崩れ
対立
衝突
殺戮
戒厳令
収容所
無差別虐殺
財産没収
あらゆることが押し寄せ
家は手放さざるを得ず
家財は失われ
病はつぎつぎと人を蝕んで
もう風呂にも入れずに
無言で衰弱し死を待つのが
いちばんの幸せとなる

いま世界で起こっていることが
飛び火のように広がる
人々の無視や
しかるべきことに興味を持たなかったことが
激しく返ってくる
もう始まってしまっている
加速度がすこしでも強まらないようにと
願うのがせいぜい




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