2014年12月30日火曜日

あたりのいなさ なさ に



   
ことばを貶めて
森を讃えるひとびとにも飽き
集落の入口の祠の泉から
てのひらで冷水を汲んで飲んだ
しずかな犬が後ろを過ぎたようだが
ふりむいても見えなかったので
わたしから距離を取りながら憑いてきていた
あれ
だったのかもしれない

落ちていったのだろう
去っていったのだろう

ことばは鎮魂である
ことばは厄払いである

悪魔というものはいない
悪魔に思えるものがいるとしても
失うものがない時には
それさえも
もう
悪魔ではない

遠いとおい森が
あんなに鬱然としずかなのに賑やかだ
あの賑やかさは
わたしにしか聞こえない
あそこから離れてきた
あそこを捨ててきた

祠のまわりには
だれもいない
なにもいない
わたしひとりであたりを見まわして
ここはなんと
なにもないことかと
心を洗っている
わたしの
わを洗い
たを洗い
しを洗い
視線さえ洗い
もう少しすれば
なにもなくなってしまって
あたりの
いなさ
なさ
そのまま
いっしょになってしまうだろう




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