2020年12月25日金曜日

つけ加えない

 


あゝ あれを忘れたな

と思う

あれもあれもあれも

忘れたな

と思う

 

でも

いいんだ

つけ加えようか

思う

 

20世紀末期に流行ったように

どうであれ

それで

いいんだ

という

風味

つけ加えようか

思う

 

思うだけで

つけ加えない

けれど






まずは復讐しなくてはいけない


トリュフォーは映画で

「文学は復讐ではない」と

主人公に向け

別れた妻に言わせていて

若い頃はわたくしもこれに共感し

さすがにトリュフォーだと

感心もしたのだが

まずは復讐として

書き出されるのでなくては

言葉は推進力を持たないものなのだと

年齢を重ねてようやくわかった

そうして書き終えられた後で

ようやく

「復讐ではない」境域に

書き手は入り始めていくのだ

甘えてはいけない

まずは復讐しなくてはいけない

はじめからいい子ぶって

悟ったふりなどしていては

いけないのだ





時には

  

時には母のない子のように……

寺山修司

 

 


時にはノーテンキな詩人のように

わたくしの作品は

などと

語ってみたい

だけど

理性はすぐ戻る

構造主義的文芸批評以後

作品などとは

もう

言えない

わたくしのとも

もう

呼べない





そんな甘っちょろいものでなどない

  


しら雲はかげをおろしていゆくなりあはれいづこにわれは救はる

                                                                                       前川佐美雄

 

 



文章であっても

詩歌であっても

ひとのものを読んでいると

あゝ これは

読んでもらいたくって書いているんだな

読んでくれるひとがいると思って

思い込んで

書いているんだな

そう感じさせられる時がある

 

それはそれでいいし

それはそれで

しあわせなことかもしれないが

そんな文章も

詩歌も

もう

わたくしは書くことができない

 

もう

読んでくれるひとはいない

と知っているし

もう

読んでもらいたいひとも

いないから

 

そんなわたくしの書くものは

なにに似ているだろう

消えていったひとたちや

先に死んでいったひとたちへと送る

遺言書に似ている?

 

いや

いや

そんな

甘っちょろいものでなど

ない





あまりにたくさんの24日たちの思い出に

 

そろそろ

クリスマスも来るんだろうかな

と思っているうちに

スーパーにチキンが並んだりして

いつのまにか

24日になっていて

今日って

ひょっとして

クリスマスイヴじゃないのか?

などと

他人事のように

異世界のことのように

気づく

 

特別なことはなにもしないが

遠方からチーズケーキも送られてきて

シャンパンもワインも来て

やろうと思えばご馳走も準備できるのに

べつになにもせず

夜の食事でも

冷や奴や根菜に白菜やキノコを足した煮物や

煮サバを食べていたりする

 

1224日には

幼時からいろいろなことがあったので

それらを思い出そうとするだけでも

何時間もかかってしまうだろう

人で溢れる渋谷でこの夜を過ごしたこともある

代々木公園で大きなツリーを見たこともある

若者向けやファミリー向けの雑誌にでもありそうなぐあいに

パーティーっぽくしたことも何度もある

フランスの山奥の町で凍えながらミサに出たこともある

パリでご馳走ぜめにあって

時々ベッドにぶっ倒れに行ったこともある

幼稚園ぐらいまでの頃は

不二家のクリスマスケーキがうれしく

小学校に入りたての頃には

サンダーバードの火星探検機ゼロX号を

クリスマスプレゼントに貰ったこともある

 

いつのまにか

24日になっていて

今日って

ひょっとして

クリスマスイヴじゃないのか?

などと

他人事のように

異世界のことのように

気づく今年

あまりにたくさんの24日たちの思い出に

あっぷあっぷして

これからはもう

人生を断食してしまいたいような気持ちになっている

過ぎてきた人生の

消化の時間をとりたいような気持ちになっている





2020年12月22日火曜日

能面

 

グアンダナモなど

強制収容所では囚人たちはマスクを装着させられる

マスク着用は囚人や奴隷であることの明瞭なサインだから

低酸素症にする拷問の一部でもある

 

最近の大規模な研究で

無症状者が感染源にならないのは明らかにされた

Nature Communications volume 11, Article number: 5917 [2020]

中国で1,000万人に及ぶ追跡調査が施行され

そのうちPCR陽性かつ無症状だった人(無症候性キャリア)は300人だったが

この300人と密接に接触した1,174人を調べた結果

PCR陽性となった人はゼロで

症状が出た人もゼロだった

 

ヨーロッパでは変異株が猛威をふるっているなどと

プロパガンダするWHOでさえ

支離滅裂にも

その証拠はないと言っている

 

東京、神奈川、埼玉、千葉の知事らは

コロナ儲けの利益共同体に加わってもいるだろうが

それ以前に救いようのない情報弱者という他ない

医師会がそう言っているからというのなら

急務の問題についての医学論文さえ読んでいない医師会というのは

いったい何なのか

初詣の時期をずらすことや

マスク会食

家の中でのマスク着用などを

年末大売り出しの商店街の放送よろしく

呼びかけたりしているが

 

子どもの頃からすでに

能面をぴたっと被って生きてきていて

大震災や他国の都市侵入などの際

混乱にここぞと乗じて大虐殺をする時だけ

能面を取り去って大はしゃぎする日本人には

その上にさらにマスクなど

要るまいに





ニッポン虜囚時代

 

 

それほど昔のことではない,その名は思い出せないが,ラ・マンチャ地方のある村に,槍掛けに槍をかけ,古びた盾を飾り,やせ馬と足の速い猟犬をそろえた型どおりの郷士が住んでいた。羊肉よりは牛肉の多く入った煮込み,たいていの夜に出される挽き肉の玉ねぎあえ,金曜日のレンズ豆,土曜日の塩豚と卵のいためもの,そして日曜日に添えられる子鳩といったところが通常の食事で,彼の実入りの四分の三はこれで消えた。
   セルバンテス『ドン・キホーテ 前篇』(牛島信明訳)

 

 


わたしが教えている大学の中には

名ばかりの大学があって

それがどこのなんという大学か

『ドン・キホーテ』の冒頭にあるように

その名は思い出せない

と言っておいたほうがいいだろうが

なにせローマ字のQさえ知らない者が

平気で入学許可される大学

 

語学を教えていて

すでに教えてある文を

学生に読ませたら

まったく読めず(この程度は日常茶飯時の出来事)

どうしたんだい? 場所がわからないかい?

とテイネイにヤサシクたずねたら

平成の半ばからは教員は養護施設職員となったのであるからして)

「最初の時が読めません」という

「どの字が?」と聞いたら

「Pの反対になっている字」

それはなんと! Qで始まっている文で

つづり字が読めないというのならまだしも

文字がわからないというのだから

ぶったまげたね、こりゃ!

「これ、キューじゃない? 英語で使っているよね?」

「習ったことないです」

「6年間英語やらされたよね」

「でも習ったことないです」

 

さすがにQを知らない学生は

そうたくさんはいないが

誰も彼もだいたいこんなレベルのクラスを

正式な入試なしで高校からの推薦とかなんとかで

雑魚の地引き網みたいに海底から漁って集めてくるような

どこのなんという大学か

その名は思い出せない

と言っておいたほうがいい大学で

ふたつも担当してきたんだから

わたしはこの何十年間を

ニッポン虜囚時代と

呼んでいる次第





みんなこしらえ物なんだから

 

 

フィクションというものを全く重宝がらない私は

(だって

(いくらでも自前で作れてしまう……

大学院の文学研究の発表の場で

ああだこうだと議論になった時には

 「あの…、しょせん作り物の世界のことなんで…

 「興奮して議論する意味ないんで……

とちゃぶ台返しをした

 

いま

映画の講義をしながら

学生が登場人物どうしの対立などを指摘して

さも凄い構造を見つけたかのように言ってくる時には

「はい、ドラマ作りの基本は

「人物どうしの対立構造づくり

「そしてそれなりの理由を各人に持たせて

「1時間半ぐらいの観客拘束時間を埋めるゴタゴタを

「なんとか維持すること

「それだけのこと

などと教えている

 

ドラマや映画なんぞに

取り込まれるな!ってことさ

みんな

こしらえ物なんだから





そろそろ暴くよ



ブラック業界でもアルバイトをしている

アルバイトなので報酬は雀の涙ほどである

業界は教育業と自称しているが実質はブラック業界である

新型コロナ対策ということで春にオンライン作業になった

 

通常業務で必要な仕込み時間はせいぜい週5時間である

仕事現場での拘束時間は通常は約10時間

通勤時間は11時間

あわせて26時間

 

オンライン作業では仕込み時間が異常なほど増大した

仕込み時間が最低57時間に増えた

最高だと75時間になる

通勤時間は消滅

あわせて57~75時間

 

それだけではない

オンライン作業では個々の学生からの課題チェックが要請された

受け持ち学生数は2000人ほどいるので

ネットで送られてくる課題やレポートや小テストのチェックは

毎週2000通となる

一人に1分かければ一時間に60人を処理

日に10時間をチェックにあてれば600人処理できるが

仕込み時間も必要なら

家事も食事も他の仕事に当てる時間も必要である

ムリの少ないようにチェック作業を分割すれば

一日286人ほどチェックするのが最適だが

これは土日もウイークデイとして扱った場合である

土日だけ休めるようにするならば

一日に400人をチェックしなければならない

しかもこれはあくまで一人1分とした場合で

もし添削などで1人15分もかかれば1時間に4人しか処理できな

この計算で2000人を処理するとなれば500時間かかる

一週間の時間量は168時間である

500時間の課題チェック労働を168時間でどう消化すべきか

全員に15分かからないとしても

250時間はかるくかかってしまう

250時間の課題チェック労働を168時間でどう消化すべきか

 

しかも

仕込み時間+課題チェック時間=307~575時間

笑ってしまった!

笑ってしまった!

睡眠を削り生活時間の昼夜を消滅させて

それでも2000人チェックを遂行してしまった!

おかげで徹底した脳の変容が起こった

人間関係はたんなる処理対象としか完全に捉えなくなった

それが2020年に起こったことである

 

夏に入る前にブラック業界に電話して怒鳴りつけた

労働問題では労働強化と呼ばれる事態が発生したことをどう思うのか?

乗り込んでいって先ずは誰でもいいから刺し殺そうと思った

それがごく当たり前の判断であると思うようになっていた

307~575時間のデジタル文書処理は

そもそもの労働規約に存在していないので違法である

未来永劫絶対に許さないつもりである

 

アルバイトをしているブラック業界は

教育業と自称しているが実質はブラック業界である

大学

とも自称しているが

あらゆる面でブラックである

 

そろそろ暴くよ




2週間余のヘルシンキ出張


PはQではないのでPPP化するが

AFDR素を抽出しないかぎりQ変異の可能性が残る

海と名づけよう/G力線の

もう少し精妙な調査をしないと

PPP化の操作率は十分には確定できない

小屋の屋根はピンクで塗られるべきだが

青草に塗料が点々と落ちた(過去形の突然の導入)

つるつるのようでも

必ず瑕は付いている机上に

ZofyR製の超小型コントローラを置いてから

2週間余のヘルシンキ出張に出る





2020年12月18日金曜日

江中さんの無意識のどこかには


理解は評価に先立つ

ロック

 

 


いちどだが

詩人の鈴木志郎康氏に会った

 

どういう気まぐれか

どんな裏があったのか

詩人の長尾高弘氏とさとう三千魚氏が誘ってくれて

彼らが懇意にしているシロヤスさんの家に行った

 

シロヤスさんと話していて

あ!

と気づいたことがあった

シロヤスさんは

元早稲田大学教授市川慎一と親友だと

ぼくに

急に語ったからだ

フランス18世紀研究

とりわけディドロ研究の

市川慎一教授

 

早稲田大学文学部文芸専修助手だったぼくの

直属の上司は

フランス現代文学の

とりわけヌーヴォー・ロマン研究の

ことにクロード・シモン研究の

江中直紀教授で

奇矯な気難しい性格で有名だった

しかし

なぜだか

ぼくと江中さんの関わりは

まったく波風立たず

ぼくにだけは

すこぶる

いい上司だった

 

ぼくが詩歌に関わっているので

江中さんは

文芸専修のかつての名物講師鈴木志郎康の

後の人事を

話してくれたことがある

 

シロヤスさんは自分の弟子の詩人を推してきて

その次の講師にさせようとしたんだが

それがなんだかわからない詩人で

これはちょっとね

採用するわけにはいかないんだよね

っていう人で

 

といったことを

江中さんは

ぼくに語った

 

へえ、誰だったんですか?

とぼくは聞いたが

なんて言ったかなあ

もう名前も忘れちゃった

もう残ってもいないし

と江中さんは言った

 

この人事について

ぼくは

江中さんの側につくわけではない

大学の人事はいつもいい加減で

いい加減でなければ

恣意的

恣意的でなければ

将来自分たちを称揚してくれる犬を

選ぶと相場が決まっている

シロヤスさんが推したのなら

それなりの理由があってのことだろうが

それなりの理由以上の大量の簡易理由が

大学にはつねに

いくらでも転がっている

どこの大学も自民党の党内のようなものだから

 

この江中さんが

隠しようもないほど犬猿の仲だったのが

他ならぬ

市川慎一教授だったのだ

フランス文学専修の会議では

なにかと

このふたりが対立し

罵倒冷笑嘲笑の連続だった

痴話喧嘩のようなさまを

フランス文学専修の助手から聞かされるのは

毎週とは言わずとも

月に数回のお決まりの行事だった

 

市川慎一教授と友だちなのだと

シロヤスさんから聞いた時

あ!

とぼくは気づいた

ひょっとして

そういうわけだった?

市川慎一と繋がるものの排除を

学内の仕事では公平だった

江中さんでさえも

無意識的に遂行したのだったか?

 

問うてみれば

そんなことをするわけがありません!

と江中さんは

断固たる反論をするに違いない

 

しかし

彼は言っていた

 

いつまでも

シロヤスさんの影響を残すわけにもいかないから

 

証明まではできないものの

シロヤス=市川慎一の流れというものが

あったのかもしれないなあ

とは思う

江中さんの無意識の

どこかには