30年間の伴侶がフランス人で
休みのたび
時間のとれるたび
フランスの各地で過ごすのが
わたくしの今生だったから
伴侶のフランスの家族が
わたくしの家族のようなものだった
わたくしの成人までの
日本の家族は崩壊し去っていた
酒乱の父のせいで
ヒステリーの母のせいで
父を捕らえた警官から
学生時代のわたくしは言われた
「こんなことは言いたくないんだが
「きみには本当に同情する
「いくらなんでも
「こんな父親を持つなんて
「どういう星の下に生まれたものだか
フランスに家族がいたとしても
強度のアレルギーを持つわたくしは
COVID-19のワクチンなど
断じて打つことはできないので
飛行機に乗ることは
もう
あるまいし
フランスに行くことも
もう
あるまい
いいんだ、それでも
わたくしはもう
十二分にフランスを放浪したし
今ではもう
フランスの人心は荒れて
被害を受けずに
アジア人がさまよえるところでは
ない
それにわたくしは
もう
倦み切ってしまっている
旅のさなか
あちこちで添加物だらけの
ゴミのようなつかの間の食事をとり
居心地の悪いシートで座ったまま寝たり
乗り物の時間に急かされ続けて
それでも
まるでなにか大事なことを
遂行しつつあるかのような幻想に
なおも浸りながら
ただ死へと流され続けていく
時の河の
下り方というものに
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