2020年12月18日金曜日

時の河の下り方というものに

 

30年間の伴侶がフランス人で

休みのたび

時間のとれるたび

フランスの各地で過ごすのが

わたくしの今生だったから

伴侶のフランスの家族が

わたくしの家族のようなものだった

 

わたくしの成人までの

日本の家族は崩壊し去っていた

酒乱の父のせいで

ヒステリーの母のせいで


父を捕らえた警官から

学生時代のわたくしは言われた

「こんなことは言いたくないんだが

「きみには本当に同情する

「いくらなんでも

「こんな父親を持つなんて

「どういう星の下に生まれたものだか

 

フランスに家族がいたとしても

強度のアレルギーを持つわたくしは

COVID-19のワクチンなど

断じて打つことはできないので

飛行機に乗ることは

もう

あるまいし

フランスに行くことも

もう

あるまい

 

いいんだ、それでも

 

わたくしはもう

十二分にフランスを放浪したし

今ではもう

フランスの人心は荒れて

被害を受けずに

アジア人がさまよえるところでは

ない

 

それにわたくしは

もう

倦み切ってしまっている

旅のさなか

あちこちで添加物だらけの

ゴミのようなつかの間の食事をとり

居心地の悪いシートで座ったまま寝たり

乗り物の時間に急かされ続けて

それでも

まるでなにか大事なことを

遂行しつつあるかのような幻想に

なおも浸りながら

ただ死へと流され続けていく

時の河の

下り方というものに




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