2020年12月18日金曜日

江中さんの無意識のどこかには


理解は評価に先立つ

ロック

 

 


いちどだが

詩人の鈴木志郎康氏に会った

 

どういう気まぐれか

どんな裏があったのか

詩人の長尾高弘氏とさとう三千魚氏が誘ってくれて

彼らが懇意にしているシロヤスさんの家に行った

 

シロヤスさんと話していて

あ!

と気づいたことがあった

シロヤスさんは

元早稲田大学教授市川慎一と親友だと

ぼくに

急に語ったからだ

フランス18世紀研究

とりわけディドロ研究の

市川慎一教授

 

早稲田大学文学部文芸専修助手だったぼくの

直属の上司は

フランス現代文学の

とりわけヌーヴォー・ロマン研究の

ことにクロード・シモン研究の

江中直紀教授で

奇矯な気難しい性格で有名だった

しかし

なぜだか

ぼくと江中さんの関わりは

まったく波風立たず

ぼくにだけは

すこぶる

いい上司だった

 

ぼくが詩歌に関わっているので

江中さんは

文芸専修のかつての名物講師鈴木志郎康の

後の人事を

話してくれたことがある

 

シロヤスさんは自分の弟子の詩人を推してきて

その次の講師にさせようとしたんだが

それがなんだかわからない詩人で

これはちょっとね

採用するわけにはいかないんだよね

っていう人で

 

といったことを

江中さんは

ぼくに語った

 

へえ、誰だったんですか?

とぼくは聞いたが

なんて言ったかなあ

もう名前も忘れちゃった

もう残ってもいないし

と江中さんは言った

 

この人事について

ぼくは

江中さんの側につくわけではない

大学の人事はいつもいい加減で

いい加減でなければ

恣意的

恣意的でなければ

将来自分たちを称揚してくれる犬を

選ぶと相場が決まっている

シロヤスさんが推したのなら

それなりの理由があってのことだろうが

それなりの理由以上の大量の簡易理由が

大学にはつねに

いくらでも転がっている

どこの大学も自民党の党内のようなものだから

 

この江中さんが

隠しようもないほど犬猿の仲だったのが

他ならぬ

市川慎一教授だったのだ

フランス文学専修の会議では

なにかと

このふたりが対立し

罵倒冷笑嘲笑の連続だった

痴話喧嘩のようなさまを

フランス文学専修の助手から聞かされるのは

毎週とは言わずとも

月に数回のお決まりの行事だった

 

市川慎一教授と友だちなのだと

シロヤスさんから聞いた時

あ!

とぼくは気づいた

ひょっとして

そういうわけだった?

市川慎一と繋がるものの排除を

学内の仕事では公平だった

江中さんでさえも

無意識的に遂行したのだったか?

 

問うてみれば

そんなことをするわけがありません!

と江中さんは

断固たる反論をするに違いない

 

しかし

彼は言っていた

 

いつまでも

シロヤスさんの影響を残すわけにもいかないから

 

証明まではできないものの

シロヤス=市川慎一の流れというものが

あったのかもしれないなあ

とは思う

江中さんの無意識の

どこかには





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