2020年12月3日木曜日

白磁の壺のおもてのような肌でいさえしてくれれば

 

 

濡れてもいい雑誌や

パンフレットのたぐいを見ながら

湯船に浸かる

 

そんな一冊に出ていた

古い写真には

明治に創業した美容室の記念写真があって

当初の10何人かの美容師たちが

一同に会していた

 

いろいろな顔が並んでいて

印象の強い顔や

うっすらと狐っぽい顔

ネズミっぽい顔

彫りの深い顔

あれこれ見つめながら

たとえば

いま結婚するなら

どんな顔の人がいいかな

などと考えたりする

 

みな明治の人で

とっくに死んでしまっていて

人となりも知らないし

向こうだって

私のようなものはまっぴら

御免でございます

などと言いそうなものだし

なんとも勝手で

いい加減で

まったくもって

暢気この上ない妄想なのだが

こんなふうにして

湯船に浸かっているのは

ひょっとしたら

いちばんの

しあわせかもしれない

 

それにしても

われながら

女の顔の好みも

変わったなあと思う

印象のうすい

目も開いているのかどうか

いるのかいないのか

わからないような

ほのかな幽霊みたいなのが

好みといえば

いまの

好み

 

白磁の壺の

おもてのような

肌でいさえ

してくれればなあと

これはちょっと

贅沢な

要求かも

しれないが




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