2023年3月10日金曜日

9日10日11日12日


 

都築省吾

悲しくも火に囲まれし人人や駈け来駈け行く駈け駈け廻る

炎去りよろめき立てば焼け死にし人ころがれりうしろにかたへに

 

平崎三郎

布団かむりゆらゆら来たる女ありあはれ一夜に気やふれたるか

 

天久卓夫

頭髪のやけうせしむくろみどりごをいだきてころぶ日の照る道に

 

能重真太郎

焼死体をトラックに積む兵卒ら無造作なり荷物を扱うごとく

 

藤村省三

火に耐えて形たもちし瀬戸ものの洗へば崩るわが手の中に

 

 

 


 

 

39日は

ミクの日

という情報が

ネットを見ていたら

流れて行った

 

初音ミクの日

だという

たしかに39

ミク

 

わたしの場合

3月のこのあたりの日々については

310日が

東京大空襲の日

こればかり

思い出される

東京に住んできた人たちにとって

親や祖父母の世代は

この日に大きな恐怖と損害を被ることになり

たいへんな苦労をしたので

いつまでも語り草になる

 

死屍累々となったあたりのひとつに

今は隅田公園が作られているが

あそこで野点をやると

今でも

憑いてくる霊がいるそうだ

数日はからだが重くなってしまう

という

お茶をやっている人から

そう聞いた

 

東日本大震災の話が

ちらほら

ネット上に見えるようになってもくるので

これはまた

どうしたことだろう

などと

思っていると

そうか!

311日は

東日本大震災の日だったではないか!

 

310日の

東京大空襲のことは

まっ先に思い出すのに

311日の

東日本大震災のことは

ほとんど忘れてしまっていることに

われながら

すこし驚いてしまう

地元の人間の心というものは

やはり

地元に関わることを

優先して

思い出したりするものなのか?

 

ちなみに

3月12日は

財布の日なのだそうな

3(サ)1(イ)2(フ)というふうに

洒落たのだろう

スイーツの日でもあるそうだが

3(スリーのス)1(イ)2(ツーのツ)ということらしい

 

310日も

311日も

洒落にならないほどのことが起きた

記念日なのに対し

一夜明けた3月12日のほうは

洒落のめした

記念日となっている

 

そういえば

東日本大震災を経験した

仙台の大学生から

こんな話を

聞いたことがある

 

飲み会が夕方からあったので

はやめに店に向かっていたという

仙台の人間は

飲み会などの際は

予定の時間よりずいぶんはやく出向いて

先に飲みはじめる者もいたり

まちまち

遅れてきて

飲み出す者もいたりするそうだ

 

まだ皆が集まらないうちから

飲みはじめていると

地震が起こった

店は無事だったが

大地震だったのですぐ家に帰ろうと思い

帰路についた

海に近いところの見慣れた川に出ると

川の水がすべて引いてしまっていて

川底が見えている

これはあまりに異常だ

と恐ろしくなった

大津波の来る前に川の水が引いてしまう現象を

目の当たりにしたわけだった

その後すぐに大津波が来た

彼は巻きこまれなかったが

大津波で街じゅうが破壊されて移動できなくなり

その後一ヶ月間

自宅に帰ることができなかったという

家族との連絡も

取れなかったという

 

3月10日

東京大空襲の日

妻の父はまだ中学生で

たまたま

両親は多摩に行っていて不在だったので

子どもたちだけで

日暮里で

大空襲に見舞われた

火の中を姉たちと逃げ惑ったらしいが

その際に見たものを

死ぬまで

ついに

子には語ることはなかった

 

大空襲の翌日や

その後の日々

わたしの祖父上杉秀松は

その頃住んでいた田端から下町へと

被害状況を見に出かけた

隅田川は死体で埋まっていて

陸の至るところにも

死体が山積みになっていた

神田生まれの江戸っ子である上杉秀松は

子どもの頃から馴染んできた東京のあちこちが

すっかり様変わりして

ひと晩で

滅んでいってしまったのを見た


見て

見て

見て

なおも

見ながら

歩きまわり続けた







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