2023年3月11日土曜日

危ういな

 

 

津波で

母を失った少年は

悔いていた

 

その朝

つまらないことで

母と

ケンカなんかしないでおけば

よかった

 

ケンカしたままで

母とは

永遠に会えなくなって

しまった

から

 

その少年を慰めるように

ほかの人が

言ってやっていた

 

そんなことないよ

大丈夫だよ

お母さんはわかっているよ

あなたのお母さんなんだから

ケンカのことなど気にせず

あなたを

いちばん大事に思っているよ

 

…美談のような

やさしい

慰めかたのような

 

しかし

危ういな

思った

 

その人は

ふたりの人間を

息子と

そのお母さんという属性を通してだけ

結ぼうとしているのだ

 

息子でもなく

お母さんでもなかった

べつの面

余剰というか

残余とでもいうか

枠にも

定義にも

はまらない部分をゆたかに持っていた

ふたりの存在の

ほとんどの部分を無視し

殺してしまっていて

 

 


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