津波で
母を失った少年は
悔いていた
その朝
つまらないことで
母と
ケンカなんかしないでおけば
よかった
と
ケンカしたままで
母とは
永遠に会えなくなって
しまった
から
その少年を慰めるように
ほかの人が
言ってやっていた
そんなことないよ
大丈夫だよ
お母さんはわかっているよ
あなたのお母さんなんだから
ケンカのことなど気にせず
あなたを
いちばん大事に思っているよ
…美談のような
やさしい
慰めかたのような
しかし
危ういな
と
思った
その人は
ふたりの人間を
息子と
そのお母さんという属性を通してだけ
結ぼうとしているのだ
息子でもなく
お母さんでもなかった
べつの面
余剰というか
残余とでもいうか
枠にも
定義にも
はまらない部分をゆたかに持っていた
ふたりの存在の
ほとんどの部分を無視し
殺してしまっていて
0 件のコメント:
コメントを投稿