2023年3月29日水曜日

わたしが知り過ぎている老人、時間

 

 

 

眠らぬまま

起き続けていたものの

午後二時にはついに眠くなって

大いなる

昼の眠りに

われ

就けり

 

寝に就くのを

確認しに寝室を覗きにきた妻が

また

出ていって

扉を閉めるのを

眠りに陥っていく目で追いながら

わたしは見た!

現在というものが過去に成り代わっていくさまを!

 

現在だった光景を

後々に過去として思い出すのではなく

現在というものが目の前で過去というものに成っていく瞬間を

わたしは見た!

 

ああ!

これが現在から過去への変化の瞬間か!

眠りにも妨げられず閉じられることのない目で

わたしは見た!

 

時間よ!

もう

おまえのことを

わたしは超克した!

 

シェイクスピアの『冬物語』の

第四幕一場で

おまえがどんな長広舌をしようとも

おまえのアキレスの腱を

わたしは掴んだ!

 

日々刻々

どんな時も居丈高に

傲岸不遜に

われらを支配しつつ

現われては

順繰り順繰りと消えゆき

絶えぬおしゃべりを続けるおまえ

時間!

 

おまえのことを

かつて

アナトール・フランスは言った

 

「こう語るのは誰か?

わたしが知り過ぎている老人、

時間だ」*

 

 

 

*アナトール・フランス『シルヴェストル・ボナールの罪』、「1869820日」の日記

Anatole France « Le crime de Sylvestre Bonnard » 1881





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