桜の頃としては
めずらしいほどの雷雨となって
夕食時
なんとなく楽しくなって
カーテンを開け
室内のあかりを落して
暗い空から降り続けるさまや
ときどき光るかみなりを
見続けながら食べた
歳を重ねるほどに
雨が好きになる
雷など鳴るときは
たいへんだ
たいへんだ
などと言いながら
楽しくてしょうがなくなる
若い頃に
進学塾で教えていて
夏期講習などとなれば
朝9時から夜10時まで
教えていたりもする
労働基準法もなにも
あったものではなかった
ある夏の講習では
勉強する気のあまりない
中学3年生のクラスを
夜の最後の授業に持っていた
勉強する熱意はないが
気のいい子たちで
教えるのはイヤではなかった
特に女の子たちはきれいで
居るだけで華やいで
ドラマにちょうどいいような
舞台設定だった
授業の時間に
雷雨になったことがあった
教室からは夜の街が見わたせて
あっちに雷が落ちる
こっちにも雷が落ちる
けたたましい音とともに
そんな光景がずっと続いて
勉強どころではなかった
思い切って
教室のあかりを切って
二十分ほど
生徒たちと窓に貼りついて
雷雨の大騒ぎを見続けていた
あっちに雷が落ちる
こっちにも雷が落ちる
けたたましい音のするたびに
女の子たちは大はしゃぎで
花火大会を見ているようだった
もちろん勉強は
あまり進まなかったが
帰りがけ
生徒たちの興奮は覚めやらず
今日はよかったね
すごかったよね
いい授業だったよね
一生思い出に残るよね
などと言いながら帰っていった
あの教室の生徒たちよ
あれから
25年は経った今も
思い出に
まだ
残っていますか?
ひょっとして
さっきの桜雷雨に
どこかで降り込められたりして
若かった頃の
夏の
あの雷雨の夜を
思い出しませんでしたか?
苦しく
理不尽で
むなしいことばかりだった
進学塾業務の
あの頃
たった一夜の数十分のことながら
ふいに恵まれた
奇跡的な時間として
あの雷雨
いっしょにきみたちと
見ていられたことを
わたしのほうこそ
覚え続けている
今日はよかったね
すごかったよね
いい授業だったよね
一生思い出に残るよね
という
帰りがけの
きみたちのことばと
ともに
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