届きものは
きれいに枯れた麦の穂と
ふしぎなほど
やわらかい
やはり枯草色の
ハンカチほどの布
数枚
よく知っている
といっても
五回も行っていない
山間の高原
気持ちの通じた
そこの人たちから
この夏と
これからの
世の大混乱を
生き延びる勇気を
と送られてきた
なにかの
役に立つでもない
表象
やわらかい布は
汗を拭う程度には
役立ってもくれそうだが
そうすれば
たちまち分解して
宙に消え去って
しまいそう
さっそく
枯れ切った麦の穂を
ドアのわきの壁に飾り
布は暖炉の上の
ある形象をかたどる
石膏像の下に
わざとくちゃくちゃにして
置いた
このくちゃくちゃさが
驚くべき
アンテナになるから
このように
届きものを配してみるだけで
湧き起こり出す
さまざまな場所での
あまりに多すぎる思い出
思い出だけに従って
しかし生きようとしてはいけないと
よくよくわかっているので
それらを家の中の宙に放つと
さっそく麦の穂と
やわらかい布々の間に
音符のように並んで
星のように光りながら
ここにいて
知るべきことを
鳴らせはじめてくれている
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