2016年8月30日火曜日

揺れるのを見ながら



ライオンも豹も
治したことがある
獣医さんと歩いていると
クロワッサンの
かおりが
した

でも
食べたいのは
ふつうの
食パン
バゲットでもいいけれど
そこらへん
どこにでもある
食パン

ヒナゲシが咲いたので
何本か
揺れるのを
見ながら

食パン




みえこ



金魚つかいの
Dさん
から貰ったお皿は
重くって
ひいおばあちゃんの頑丈な踏み台に載せたまゝ
けっきょく一度も
使ってない

オミナエシの一ふりを
上に置いたことは
あったかな

みえこの
一周忌の頃だった
かな



コーンスープ



小さな手帳を
また
置いてきてしまったけれど
月がきれい

ペンだけ
かばんの端に
挿してある

月がきれい

灌漑の工事がはじまれば
サロちゃんは
行ってしまうから
会う日
そろそろ
決めなければ

予定を
手帳に書き込まないでいると
すてきに
安全に
実現するんだと
聞いた

若い頃の
叢林
夕日も
入道雲も
それを通して見つめた

月がきれい

閉店してしまった店の
コーンスープ
あれが
ふと
飲みたくなる

閉店以来
飲んでいない

たぶん
一生
飲まない



ゆうれい



川のむこうから
手まねき
くらいするもんだぜ

出てきたら
言ってやるつもり

近頃の
ゆうれい
きたら

もう
まったく
漢字
似合わない

水切りでもしようかな

石をさがす
平たい
やつ

ゆうれいの
近くまで
ひょいひょいと
行っちゃう
やつ



曇りを払いもせず



読まれたがっている
本たちの
階段下の書庫

秋の音がしている

きいきい
きいきい
から
「き」も
「い」も
抜かしたような
音で

わたしはおととしの
ドングリを
だいじに机に
入れて
あるから

どんな秋の
内心も
けっこう聞こえる

ひとりではないから
ひとりで
いる時をだいじに過ごしている

曇りガラスの
曇りを払いもせずに
顔を写したり
しながら



(まだ ことば でさえ なく…



 あわれ…
という音が (まだ
ことば でさえ なく…

漂っている

ジャングルジムに
もう
いない

ぼく
かもしれない

生まれなかった
あの
かもしれない

タンポポ
もう終わっちゃった
でしょ?

そうそうと
そうそうと
落ちた葉が鳴っている
まだ
枯れ葉の季節じゃ
ないのに


あわれ…
という音が

呼びかけてくる

呼びかける
こちら
から

もう
いない

電線の上にも
オシロイバナの咲く
川端にも

もう
いない

 (まだ
ことば でさえ なく…



まだ流星を待つ…



流星を待つ…

時計を見るとたしかに
針の位置が
変わっていたりしているが

時計にも
それなりの事情があってのことだろうから
それでもよい
気にしない

流星を待つ…

子どもの頃のある夜
もう若くもないとしみじみ思ったある夜
ふたつが
ふたつだけが
急にいっしょに肌に感じられた
これ
なんだろう
どうして
このふたつ?

離れあったものが
どこかで
つながっていたりするのか
予知のようなことも
だから
けっこう容易に
起きるのか

  まだ
  流星を待つ…




2016年8月29日月曜日

ぷしゅぅぅぅと

 
ぱちぱちするだけの
線香花火

そんなのを
いくつか
もう
暑くも
なくなって
きた
川端で
はじけさせて

ほんの
数十分やそこら

ぼくらは
ほんとうの夏を
やっと
吸いこんだような
気に
なった

夏が
ぷしゅぅぅぅと
抜けて
って
しまわない
ように

そぉっと
帰って
いったよ

してる



やっぱりビワ



感覚的な
道の
さがし方ばかりしてきた
ヤドカリが

というお話を
読みかけていて
ふと
ネーブルオレンジを食べたくなって

でも
冷蔵庫に
イチゴと
メロンと
ビワが
ちょっとずつあったので

まよったが

やっぱり
ビワ




そういった話は



透明の
ピンクの
プラスチックの
柄の
穴あけパンチ
机の上に出したまゝにしていたら
いい感じなので
用が済んでも
そのまゝにしてある

鉛筆が好ましくなってきているのは
星のめぐりのせいか

妖精に会いたい

ピンクのせいかな

プラスチックで
透明なのが
たぶん
大事なところ

  茶色の懐中時計なんかを
  わきに置きたい
気分に
なってきているけれど
持っていないんだ

鉛筆で
メモをとる

大事な
内容であっても

大事って
どういうことだろう
まるで
海に海を見に行こうとするように
微妙なところが
ある

ゆっくり
はじめていけば
いい

そういった
話は




葉っぱなんか持って


私は思った、《さらば、わたしよ、死すべき妹、虚偽よ…》
ポール・ヴァレリー『若きパルク』


  
まだ緑の濃い葉っぱなんか持って

落ち着かせるために文字を記すのではないかとも思う
こころをではなく
あたまをでもなく
なにか
もっとべつのものを

葉っぱなんか持って

落ち着かせようとしているのはわたしがではないかとも思う
わたしをではなく
わたしが

  葉っぱなんか持って

すべてに目配りしていなくてはいけないと思い込んで疲れているの
わたし

  葉っぱなんか持って


そうして
ことばはすべて子守歌ではないかとも思う

  葉っぱなんか持って

わたしの本当の子にまだ会っていないのにもう腕に抱いているかのように
歌っている子守歌

  葉っぱなんか持って

本当の子とはどのようでありうるだろう
人でもなく
精神でもなく

  葉っぱなんか持って

  あまり甘過ぎない餡子の載った
  色あいの上品な
  おやつか
なにか
ちょっと食べたい
曇って暗い
昼すぎ

葉っぱなんか持って

(呟きたいなら、声に出してお言いよ、
(なんだか、湿っぽいよ、

  葉っぱなんか持って

落ち着かせるために…
そう、たぶん、
世のだれひとり落ち着かせたことのなかったものを

わたしが




2016年8月28日日曜日

ぴっかぴか



この頃
幽霊を見ない
さん
森に行く
カナカナさえ
もう
啼かない
冷え冷えとしてきた
六郎潟
を見下ろせる
逗漉の森
しほしほ丸く
まあるく
歩を
進める
そのまゝ
沢庵
切り分けてもいない
一本
丸ごと
まぁるごと
腰籠にさ入れて
持ってった
ども
北極星
見るまでは
見るまでは
なぁんか信じられね
信じられね
言うて
後は鹿狩りの
解禁の後のように
ずずずっと
山さぁ入って
見ると
新宿副都心
わけ分んねぇと
呟いてる間に
が射す
刺す
差す
砂州
淀橋海岸
ニューマン突堤
茫々と
幽霊は立ち
幾人も立ち
船を待っているの?
みんなで
そんなふうに
立ったまゝ
江戸末期の写真のような
鮮明な線を
顎に
保ったりして
ひちゃっ
ざぶざぶざっぶっ
波じゃなくって
水母みたいな
ぬるぬるの手が
いっぱい
あたしの足を
掴んでいた
掴んでいた
引き摺り込むように
でも引き摺り込めないの
透けちゃってるから
あたし
とろとろに
なくなっちゃっているから
あるかのように
見えているだけだから
ぬるぬるの手たち
驚いて
怯んだけれど
同類
って思ったのかしら
また
いっぱい
触手のように伸びてきて
今度は
愛撫するように
掴む
んじゃなく
指を開いたまゝ
するする
ぬるぬる
する
あら、
突然の
って
あたし思ったら
じゅーっ
音が海じゅうにして
滅んでしまった
みんな
なにもかも
海ばかりじゃなくって
海岸も
ニューマン突堤も
懐中時計
たった一個
宙に
残して
どんな意味かしら
問わないの
でも
もう
問わない
あるものはあれ
なくなるものはなくなれ
って
まるで光のない
曙の
ように
鉛筆はじめて
握った
幼な子の
ように
プラスチックで
これから
時代の
ため
作り直されて
ぴっかぴかなのよ
みんな
ぴっかぴか
ほんと
ぴっかぴか