2016年8月9日火曜日

二〇一六年八月八日、東京でです。


ヘンな話をしよう

夜になって
いつものようにウォーキングに出た
河べりの土手を
四十分から一時間ほど歩く
汗をさんざんかきながら
できるだけはやく歩く

数週間前に刈られたばかりなのに
道の両脇は草が生い茂り
腿や脛に草の先が当たり続ける
ときどきウォーキングの人や
ジョギングの人とすれ違う
こちらも
歩くのに飽きると
ジョギングに切り替えることもある

日によって
道が真っ暗に見えたり
すこし明るかったりする
空に広がる雲が
付近の下界のあかりを反射していたり
雲がなくてひかりが返ってこなかったり
そんなことによるらしい
月が出ている時は
三日月でもずいぶん道が明るくなる
それがはっきりするほど
暗い河沿いの土手道

  危ないといえば
  危ない
  日本だからできる
  それも都内だからできる
  夜のウォーキング

昨夜は道がやけに明るかった
道の両脇の草っ原も明るく
いつもの夜より細かく草の先が見えた
雲が空を覆っていたが
明るさはそれだけによるのではなかった

月が出ていたのだ

しかし
おかしい
北の方角に出ている
地平線よりはだいぶ上に
どこかのマンションより上に
雲にちょっと覆われて
ボ~ッっと滲むように丸く
大きく出ている

今日は満月に近い日だったかな
そうじゃなかったはずだが
ひょっとしたら
そうだったかもしれない
それにしても
あっちのほうは北のほうだから
月があるわけはないんだが
これも考え違いかもしれない
あっちは北ではなかったかもしれない…

そう思いながら
しばらく歩き続けるうち
もっと見晴らしのいいところに来て
月があいかわらず明るく
雲の後ろでひかりを滲ませているのを見て
それにしても明るい月夜だ
まだ暑いのに
もう秋の名月の気分が漂ってくる…
そう思いながら周囲の景色を見まわしていると
ハッ
まるで音ならぬ音でもしたように
あたりが急に暗くなり
どうしたことかと月のほうを見ると

なかった

さっきまで
あんなに明るく
雲越しにひかりを滲ませていた月が
なかった

  ヘンな話でしょう?
  本当のことです。
  二〇一六年八月八日、東京でです。



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