2018年10月26日金曜日

まだわたくしは諦めてはいない

 

プトレマイオス朝のエジプトではすでに、
蒸気の力について知られていたにもかかわらず、
遊びにしか使われなかった。
フェルナン・ブローデル『資本主義の活力 (歴史入門)』


まっくらにはならないものの
薄暗い
というよりも
はるかに濃く暗い
いつも
曇天下の夕暮れのようなところ

そんな地方に
ながく
ながく
住み続けたわたくしの話を
いつか
緻密に物語りたいものだと思うのだが
あの地方を編み上げていた
物語素の数々を
それら特有の複雑さのままに
しっかりと
語りのなかに実現させようとするのは
やはり
至難の業と思われ
なんども
なんども
試みてはうまくいかず
そのたび
あわれにも
卑怯にも
こちらの地方の現実とかいうものに身を放棄してしまって
いまだ
わたくしの王国をこちらの地方の素材によっては築いていない
悔やんでも
悔やみきれない
テイタラク

しかし
あの地方に置いてきた友よ
目も脳も持たないたくさんの家族よ
内臓も思想もない子らよ
血も夢も持ったことのないわたくしの恋人たちよ
まだ
わたくしは諦めてはいない
せめておまえたちの仮泊できる程度の王国を
たとえつかのまのものではあれ
わたくしは必ずこの地方の素材で築きあげてみせるつもりだよ




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