2018年10月14日日曜日

さがし続けている



ふるさと
というのとは
ちがうところでも
住んだ場所は
みな
胸の奥がきしむほどに
過去へと
心臓が引き戻されるほどに
なつかしい

いまの住まいの
廊下に居ても
かつて住んだ家々の
あの廊下
この廊下
みな
思い出されて
立ち止って
こまかく
思い出していることが
ある

廊下でさえ
そうなのだから
寝室など
寝入ろうとして
あかりを消すやいなや
あの寝室
この寝室
みな
思い出されて
いつまでも寝つけなくなる

このあいだ
洗面所で
歯ブラシをくわえたまゝ
四歳ごろに住んでいたアパートの
洗面所や風呂のようすを
まったく
覚えていないのに気づき
呆然としてしまった

奥の部屋も
キッチンも
通路もトイレも
よく覚えているのに
洗面所と風呂が
まったく浮かんでこない

部屋から玄関に向かう通路の
左に
トイレがあるのが
いまも
よく見える
けれども
風呂は見えない
洗面所も見えない

思いのなかで
トイレの前に立ち
見まわしてみる
風呂はトイレのむこう
玄関と並んで
外に近いところにあったはずだと
見まわしてみる

洗面所は?
ひょっとして
台所の流しで済ましていたのか?
そんな時代でもあり
若い両親は豊かでもなかった
そう思いながら
洗面所もさがそうとする
玄関を左に見ながら
まっくらでもない
ぼんやり明るいような
通路をきょろきょろしながら
さがし続ける

さがし続けている



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