2018年10月26日金曜日

頭から足先までつるっとしたままのうつくしいうつくしい無個性


子は旅館のうす汚い鏡台の前にぺったり横ずわりになって、
急に輪郭のゆるんだをゆるくくねらせて、いつまでも髪をとかしていた。
                      古井由吉『子』



“印象のうすい
個性のない女たちこそが甦りつつある…”

こんなメモを記した紙が
机に
ずっと
置いてある

数週間前
ふと
思いついて
(それも
(胸が締めつけられるほど
(つよい不思議な思いにとらわれて
急いでメモしたのだが
これを
どう考えひろげようか
どう取りまとめようか
わからないまゝ
メモを
机の端に
置いたままにしてある

むかしから
個性的であろうとする男女がきらいで
魅力的であろうとする男女がきらいで
できれば
目鼻も
髪の毛も
話しぶりも
もちろん
考えも
感性も
あるのかないのか
わからないような
ぼんやりした男女だけが
偏愛の対象だった

なんとなく世間にあわせて
個性、大事ネ
大事ネェ
などと口先だけで言ってきてしまったけれど
うそ

となれば

“印象のうすい
個性のない女たちこそが甦りつつある…”

この
ふいの思いは
わたしの
わたし自身の
甦りのきざしだろうか

ああ
だれひとり
顔なんかさえ持っていない
独特なそのひとらしさなど微塵も持たない
工場で大量生産されたばかりのゴム人形の第一次段階のような
そんな世界に行ってしまいたい
まだ髪の毛も植え込まれておらず
眼球も嵌め込まれておらず
唇も
眉も描かれておらず
頭から足先までつるっとしたままの
うつくしい
うつくしい
無個性
それだけが無数に溢れかえる原初の世界!

わたしの
わたし自身の
真の欲望がはじめて地上に出現する
甦りの瞬間!



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