サスペンス映画めいたものの中で
家に忍び込んだ男が
他の部屋へ
他の部屋へと移っていく
いちばん奥の部屋に
男が入り込んでいくところまで見ていたら
わたしの意識は
ヒョッと
映画から逸れ
青年時代まで住んでいた家の中へ飛んでしまった
自分の勉強部屋から
台所へ抜け
居間を視野に収め
風呂やトイレのある玄関側に向かい
そこから身を翻して
父母の部屋へと向き直ってみる
小さな家だったので
この程度で
家の全容は把握できてしまうのだが
今になって
ようやく気づくのだ
最も期待されていた子
親類一同の中での最初の孫
不安定な家計の家の長男だったわたしが
いつも居たのは
玄関から最も遠いところ
最も奥まったところ
だったのだ
と
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