久しく無明の酒に酔って

 

 

ニュースや情報は

かつては

語りや絵や図で伝えられた

 

それら

どれにも制作者がいて

昔のいろいろな地図が示しているように

制作者の意図や偏見や無知で

どれもが歪められていた

 

伝えられたそれらを

受け取る側は

真実とは思い込まずに

制作者の意図や偏見や無知を

できるだけ除去する作業を

しないといけない

 

困難な作業だが

ここに様々な技術が編み出され

やがて科学のようなものとなっていった

語りや絵や図から

語りや絵や図が変質させる前の

いっそう原像に近いものを

浮かび上がらせる技

 

生活の中の一瞬一瞬が

あまりに多くの

語りや絵や図に溢れているので

静かに実験室にこもって

悠長に調べていくような態度は

だれも採っていられない

勘やセンスと呼ばれるような

瞬時の判断力しか

原像の絞り出しには有効ではない

 

ただでさえ大変だったというのに！

ところがいまや

かつての語りや絵や図はさらに膨張し

際限なく多量化を続けるようになり

「ニュース」という呼称を超えて

どれもこれも等し並みの価値しかない

等価「情報」となってしまった

どの「情報」も制作者によって提示される

語りや絵や図という表象なので

それらがどの程度まで原像を伝えているのか

表象の分析や読み取りの能力によってしか

測ることはできない

それらの十分な能力を備えるのが

どれほどまで困難で

ほぼ不可能なことであるか！

 

無力さに苛まれ

疲れ

諦めたひとびとは

いたしかたなく

どうしようもなく

語りや絵や図という表象を

「情報」を

出来事の原像そのものと見なす

異常な背徳行為に陥る

 

こういうことが起こされたとAは言い

それは間違いでああいうことだったとBは言う

Aの主張をCが大連絡網を使って電波で流し

Bの主張のほうが正しいと

Dが別の系統の大連絡網を使って流す

 

Aが証拠として出してくる文言も写真も

すべての改竄や捏造が容易になった現代では

本当に信頼できる証拠とは言えない

Bが証拠として出してくる映像も証言も

証言など金と脅しでいくらでも作り出すことができ

映像さえ変更するのが容易になった現代では

本当に信頼できる証拠とは言えない

 

AとBの主張のどちらを選ぶかは

視聴者Eの意識や深層意識の中にあった

潜在的な感情や深く埋め込まれた思念のきまぐれで

E自身はそもそも自らの深奥のそうした判定者に

気づいていないし

今後も気づくことさえないだろう

あらゆる表象の誤りない扱いかたを習得して

荒波の中でどちらにも傾がないような超人になるか

それともいったん

あらゆる「情報」を離れて

菩提樹の下で長く結跏趺坐でもしなければ

 

久しく

無明の酒に酔って

本覚の源を知らず

長く三界の夢に眠って

永く四蛇の原を愛す

 

空海 『性霊集』