2023年10月31日火曜日

癖の棘



 

古い知りあいから

また

メールが来た

 

ときどき

メールを送ってくる

 

本当に

“ときどき”で

八ヶ月とか

十ヶ月ぶりぐらいは

ごくふつう

 

一年半ぶりとか

二年ぶりとかも

ふつう

 

メールが来ると

本を薦めたり

あれこれ

助言をしたりするので

なんどか

やりとりが繁くなるが

それが一段落すると

また

一年とか二年とか

音信不通になる

 

今回も

何年かぶり

 

このひと

もう死んだのではないか?

と思っていたが

生きていた

まことに

水のごとき交わりである

 

女性で

五年ほど前に乳ガンに罹り

手術と治療と

その後のリハビリとで

だいぶ大変な時期もあったようだが

再発もせずに

落ち着いてきたという

 

しかし

このひとの場合

家族などにかかわる周囲の環境が

ひどい

 

家の中ではつねに荒れ狂い

外でも

あちこちで

暴力沙汰を起こしたり

入院しても院内で暴言三昧

医師にも

看護師にも

暴行を続けるというような

ほぼ異常者だといえる父親のことで

さんざん苦しみ

そういう父親が死んだら死んだで

いろいろな残務処理に追われ

弟も高次機能障害とされる精神疾患で

あちこちで問題を起こし続けており

そこへ持ってきて

今度は母親の認知症が始まり

日々のいちいちのことで

コミュニケーションがうまくいかなくなり

こんな家族に囲まれつつ

よくガンが再発せずにいられたものだと思えてしまう

 

ひさしぶりに来たメールに

こちらから返信したのもつかの間

次のメールには

今度は義父が危篤状態になってしまって

夫は病院に行きっぱなしになり

彼女のほうもあたふたして

葬儀社への問い合わせに明け暮れることになった

と書いてきた

 

以前には

夫が職場で不当解雇されたというので

こちらが労働組合の闘争に多く関わっていた時だから

いろいろと助言もし

場合によっては乗り込んで行って

闘うとも持ちかけたが

その職場から離れて

他の職になんとか就いたので

労働争議はしないで済ます

というようなことに落ち着いたりした

 

とにかく

後から後から

なにごとか起こり続けるひとで

こういう宿命というものもあるのか

とか

なにかに祟られているのではないか

とか

思わせられる

 

そう思いながら

このひとからのメールの文面を見ていると

あ?

あ!

と感じるようなものも

ないではない

 

ひとはものを考える際に

思念のかたまりを形成しては

しばらくそこに留まって

その後

べつの思念のかたまりを準備しながら

ものと思念に足を置き続け

やがてそっちの思念へと移行し

そんなことを繰り返しながら

思考の流れを作って

自我というものの「いま」を形成していくが

そうした

思念から思念への移行のあたりで

ちょっと

不要のシコリがある

このひとの場合

感じられる

 

そのシコリは

わるい想念というわけでもなく

悪意のようなものでもないのだが

思念の流れを作る際に

エネルギーの流動を変にさまたげる作用をする

そうして

もともと奥底に抱えている

古いわだかまりのほうへ養分を与えてしまう

 

思念の流れを作る時に

そうした癖のあるひとなんだなあ

と気づかされ

これが

いろいろな不要の問題を

たえず作り出すきっかけになっている

と感じられる

 

本人は

これをうまく手放したり

解消したりする方向では

なかなか

これに気づけないので

つらい迂回をするようでも

結局は

いろいろなごたごたが出来してきて

思念形成において疲れ切っていくのが

有効だと言える

こういうひとの人生は

むだなことに小突き回され続けて

疲弊し

諦念へと向かっていく他ないが

しかしながらそれが

最良の治療でもあって

人生のムダとは言えないし

無意味などとはまったく言えない

 

次々起こってくる

いろいろな問題に右往左往し

心の落ち着く暇もないのが

このひとのもっとも深奥の問題を浮き出させ

溶解し分解させていく

最良の過程といえるのだから

人生なるものも

やはり捨てたものではない

 

それにしても

このひとが悪いのではないのだ

と思いながら

長年

長く続く連続ドラマのように

このひとの人生を見続けてきてみると

ひとりの人間の

身体とか

精神とかいうのよりも

もっと奥の

宿命と呼んだほうがいいかもしれない奥の基体に

変なふうに食い込んだり

刺さった

不要の癖の棘のようなものを

うまく外すのには

本当に手間がかかると

あらためて

気づかされる

 

もっと

簡単に

手ばやく

それらを抜き取ったり

外したりすることができるはずだと

検討し続け

探し続け

試し続けているのが

今生も

わたくしの課題

 

地上に形式的に整った理想社会を作ろうとなどせず

どのひとの基体からも

エネルギーの流動を邪魔する過去由来癖を

癖の棘を

サッと取り除くすべをこそ確立し

洗練することにしか

平和の実現はないし

安寧の実現も

真の喜びや幸福の実現もない

 

ここまで

自力でわかるひとたちなら

なにをすべきか

だれでも

もうわかっている







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