家のなかの
じぶんの部屋とか
廊下とか
キッチンとか
居間とか
玄関とか
押し入れとか
洗面所とか
お風呂とか
トイレとか
じぶんのふだんの
そんな
生活空間を
とにかく
スマホで動画で撮っておきなさい
と
若いひとに勧めている
だれもいない時がいい
慣れ親しんでいる空間を
へんな演出などせずに
ただ撮影しておく
長まわししなくていい
三十秒でも一分でもいいから
(それだってけっこう長い)
短く撮っておく
なんなら
何度も撮ってもいい
何年も
何十年もすると
そんな映像こそが
きみの貴重な宝物になるよ
じぶんの机の上の散らかりようでさえ
どんどん変化していっていて
二度と同じ散りかりかたは戻ってこない
当たり前のように
机の上に乱雑に転がっているものが
じつは
いまだけの
この数日や
数週間や
長くても数ヶ月程度の
期間限定の
偶然のモノたちの集まりで
本やお菓子や
メモ帳のたぐいも
しばらくすると
きみはもう
べつのものを買うように
なっているはず
あきあきするほど
馴れきって
なんの面白さも感じなくなっている
いまの家のなかとも
ある日
ふいにお別れする時が
来たりする
そうなると
いまの住まいの内部へは
二度と
アクセス不能になる
ありきたりの
あたりまえの
日常そのものの
いまの身のまわりの風景が
二度と眼前に出現することのない
永遠に失われてしまうものに
なる
未来のじぶん自身にこそ見せるために
と考えて
じぶんの住まいのなかや
馴れきった
戸外の風景や
よく歩く道の下手なスナップを
動画にして溜めていくと
数十年後には
すばらしいプレゼントになるよ
じぶん自身に対して
その頃にいっしょにいるであろう
いまはまだ
会ってもいない
ほかのひとたちに対しても
やがては
きみも老いて
病んで
もうどんな活動もしなくなり
新しい映画も
本も
見たくもなくなり
寝たっきりのようになるだろうが
そんな時に
きみが撮り溜めた
きみ自身が暮らした場所や
馴染んだ場所の
こまぎれの動画は
驚くべき喚起力を発揮するようになる
どんな映画よりも
どんなにきれいに作られた
プロの手になる
ビデオクリップよりも
そんな
きみの精神史の
たましい史の
最終場面近くでは
0 件のコメント:
コメントを投稿