よく行くスーパーマーケットに
ガジュマルの木の鉢が
ひと鉢だけ
また入荷した
夏のはじめ
このスーパーマーケットの花売り場に
ひと鉢のガジュマルの木が入って
なんだか気になった
YouTubeの心霊番組で
ガジュマルの木に
沖縄の妖怪キジムナーが宿る
と聞いた後だった
沖縄で根付いている木ならともかく
鉢のガジュマルを手に入れても
キジムナーの守護は
得られるわけではあるまい
そう思って
買ってもしょうがないと判断し
毎日見て過ぎるだけだったが
不思議な親しみをガジュマルには感じた
すでに家には植物がいっぱいあるし
いろいろ持っていると
結局戸外の街や森林に植物があるのと
家にあるのとだんだん同じことにもなる
そんなふうに考えて
毎日スーパーマーケットに行くたび
花や植木の売り場の前で
しげしげとガジュマルを見て帰っていく
そうこうするうち
知りあいからプレゼントで
洒落た鉢に植わったガジュマルが
ふいにプレゼントされてきた
なにか観葉植物を贈ってくれるといわれて
なにが来るのかなと想像したが
まさかガジュマルだったりしてね
と冗談に家で話ながら待った
そうしたら本当にガジュマルだったので
そうか こいつが家に入り込んで来るのを
スーパーであらかじめイメージも見せられ
予兆を感じさせられていたわけかとわかった
これほどの予兆を与えられた木だから
小さい鉢植えではあるけれど
どうしたって妖怪キジムナーが
この木には宿っているにちがいない
この木がやって来てから
廊下で温いようなだれかを感じたり
ちょっと雰囲気を感じるようになったのは
たぶんそのせいなのだろう
ガジュマルがやってきてからも
スーパーマーケットのほうのガジュマルは売れず
店に行くたびに通りがかって
挨拶のようなものは続いた
おまえはぜんぜん売れないなあ
などと心のなかで言葉をかけていたが
真夏になってから
とある日にふいに姿を消していた
おや ようやく買われていったか
それはまあ よかったよかった
と門出を祝ってやるような心持ちになって
ガジュマルのない棚を眺めやった
八月も終わろうという日
『台風と呼ばれてはみたけれど』といった感じの
なんちゃって台風の10号君が
長雨を降らしている頃のことである
スーパーマーケットの花売り場の棚を
いつものように一瞥すると
おやまあ また新たなガジュマル君ひと鉢
ひょいと置かれて客を待ちはじめてるじゃないの
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