いつもヘアカットをしてもらいに行く美容室で
急にスタッフがみな入れ替わってしまい
馴染みだった数人がいなくなってしまったのだが
美容師ならだれでもできそうな単純なヘアカットを
一時間程度でやってもらうだけのことなので
はじめての美容師にその日はカットしてもらった
だいたい切り終わったと見えた頃
担当していた若いぬらりひょんのような男が退いて
「おばさん」と呼んでいいような初老の女性が出てきて
「どうぞこちらへ」と促すものだから
奥のべつの部屋に入っていってみると
畳敷きの上に旅館のように布団が敷かれていて
「こちらに横になってください」と言われた
奇妙なサービスを加えてよけいに金をとるのか?
とも考えてちょっと警戒したのだが
「彰護院霊法のマッサージをいたします」と言われた
横になってみると主に背骨やさまざまな関節への
非常に弱い押さえやずらしのようなことをし続ける
マッサージともストレッチとも呼び得ないような
弱い弱い触れてさえいないような押しぐあいで
べつに体が凝ったり疲れてもいないのだから
こんなことをされるよりはやく帰りたいとも思った
横むきにされたりうつ伏せに戻されたりと
姿勢の変更はときどき求められたが
よく効くようなすごいことをされている感触は
一貫してまったくなくて豆腐のように扱われている
「こんなにユルくてなにかに効くんですか?」と聞くと
「間接や筋のところの見えない霊体に触れているんです」
と小さく囁かれるように耳元で言われた
しばらくやってもらっているうち
「おばさん」のやり方がだいぶわかってきたので
うつ伏せになっている時に両腕を「おばさん」の背にまわし
彼女の背骨のひとつひとつを軽く動かしてやった
「おやさしい方でございます」と礼を言われた
そこでスーッと目が覚めたのである
用事のない休みの日の遅い目覚めであった
カーテンを開くと薄綿のような雨がやわらかく降っていて
すぐにも外に出ていってそのなかに身を置きたいように感じた
この薄綿の雨の霊が「おばさん」だったかとも思ったが
だとすれば雨の霊の背骨をマッサージしてやったなんて
なかなかの功徳を積んだものではないかと感じた
「彰護院霊法」という名をあまりによく覚えて目覚めるのも
ただの夢と呼ぶには不思議なものであった
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