風鈴は夏のものであろうし
夏の季語であろうけれど
秋に入ってから
かえって
よく鳴るようになって
いよいよ
仕舞えないでいる
いちばん居ることの多い部屋の
窓ぎわに
ピンを打って
そこに垂らしているのだが
真夏には
いい風がそこに入ってくることが少なく
たまにしか鳴らなかった
聞き漏らすほど風鈴のつぶやけり
桑垣信子
この句のような
ひかえめな鳴りかたが多かった
風鈴の思ひ出したるごとく鳴り
波多江イツ子
忘れたる頃に風鈴鳴きにけり
谷口佳世子
風鈴のなまけてゐたる午後三時
谷口千枝子
風鈴の鳴らぬ一日のありにけり
船山博之
風鈴の怠る大暑つづきけり
千坂美津恵
夏が好きで
夏の暑さも好きなのだが
これらの句にも気持ちの近くなる
暑いひと夏だった
どうしたことか
それが
九月に入ってからは
いい風が入り
いい音がする
秋もなかばになると
風の道も
変わっていくのだろう
夏の暑さに
怠けてしまうようだった風も
すこし
調子を取り戻してくる
ということも
あるのだろうか
飯田蛇笏に
くろがねの秋の風鈴鳴りにけり
という有名な句があるが
うちのいい音をさせる風鈴は
鉄の上に濃紺が塗ってあるので
あおがねとでも呼びたくなる
窓ぎわの
もう一方には
陶製の招き猫の風鈴を吊してある
見た目はたのしく
おもしろいが
舌に五円玉を垂らしていて
こちらは音がよくない
選んで買ったのではなく
ひとから貰ったので
しかたなく
毎年吊してみている
猫柄の縁起かつぎや江戸風鈴
桑垣信子
こんなふうに思って
見た目だけ
たのしんでいる
家の窓ぎわに
こんなふうに風鈴を
ふたつ
吊すだけでも
鳴っても
そう鳴らなくても
にぎやかな感じになるもので
風鈴を一つ吊るして世に処せり
西山胡鬼
といった
ちょっと悲愴な感じには
ならない
舌に五円玉を垂らした
くぐもった音のする招き猫を
ひとつ
よけいに
吊しているためか
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